昨日は106万円の壁について書きましたが、現実的にはまだまだ130万円の壁が気になる人も多いでしょう。そうした130万円の壁を気にせずにパートタイマー等の短時間労働者が働けるように補助金を出そうと、塩崎厚生労働大臣が表明しました。
なんだかタイトルに騙されそうになりますが、この補助金、別に年収が130万円を超える労働者に対して支払われるものではありません。パートの労働時間の延長や賃金アップを行った会社に対して支払われるものです。
年収が130万円を超えると、社会保険上の世帯主の扶養に入れなくなり、社会保険料を支払う必要がでてきます。そして、社会保険料を支払う前提で考えると130万円ギリギリで働いてるパートさんなんかは、130万円よりうんと働かないと手取りが増えない。
今回の補助金案は、パートの労働条件をその損益分岐点くらいまで労働時間を延長し賃金を上げる会社に対して補助金を支払うそうなのです。
なるほどなるほど。あんたさてはバカですな?
0.1. 社会保険に入りたくないと言ってるのはパートタイマー側
130万円の壁の問題というのは、基本的にパートタイマー側が世帯主の扶養から外れたくない、と言っているから起こっている問題です。
パートやアルバイトだからという理由で会社が社会保険に入れてくれない、という会社も世の中にはあるみたいですが、そういう会社にはそもそもコンプライアンス意識がないので、130万円の壁すらない。だから、これとは別の話なのでつまらないツッコミは禁止。話の主旨と関係ないツッコミって本当ムカつくのよ。
で、パートタイマー側が超えたくない、と言っているのに、補助金あげるから会社はパートタイマーに130万円以上働かせなさい、なんて制度作ったってうまくいくはずがない。厚労省も大臣もきちんと労働契約法を読んだ方がいい。
第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
この補助金で、会社は補助金のために契約条件を変えたがるかもしれないけど、労働者がそれに応じるとは限らない、つまり、合意が取れるかはわからない。むしろ、一方にだけインセンティブを与えることでお互いギクシャクしそう。
0.2. ボーダーラインの弊害
そもそも、130万円というボーダーの引き方もどうなのか。
社会保険や雇用保険などには、実に様々なボーダーラインが存在し、社労士受験生時代は覚えるのに四苦八苦したものですが、こういったボーダーラインというのは作成することにより、業務や規制の均一化を図れる一方で、大きな弊害を生むこともあります。
例えば、医学の治療指針では、1500グラム未満の未熟児に対して手厚い保護を行うようになっているそうなのですが、その結果、1500グラムを僅かに下回る未熟児の方が1500グラムを僅かに超える未熟児よりも、死亡率が低いという統計結果が出ていたりします。
わずかな体重差で受けられる医療に差が生まれ、結果、生存率も変わってしまったわけです。
上記の未熟児の話はこちらの本で知りました。経済的に物事を考えるとはどういうことか、というのがよくわかる、読みやすくてわかりやすい本でオススメです。
0.3. ベルリンの壁は崩れても、130万円の壁は残った
このようにボーダーラインを引くことには弊害があり、引くのであれば慎重に正当な根拠に則って引く必要があります。
社会保険にしろ税金にしろ今現在のボーダーラインによって多くの弊害が生まれているのは明確でしょう。だからこそ、パートタイマー側は扶養のままでいたいと言っているわけですから。
そもそもを言うと、この130万円という壁は「昭52.4.6保発9号」という厚生省の通達が根拠となっております。繰り返しますが、
昭和52年の通達ですよ。
それからもう38年。38年前の基準でエヴァの時代に追いついた今現在もやってるって、はっきり言って正気の沙汰じゃない。その頃あったベルリンの壁はもうとっくに崩れてるのに、130万円の壁は未だにあるって、なんだかもう頭痛が痛い。
最低賃金の上昇により、もはや都市部でこの130万円以内をキープして働くのは、多くのパートタイマーにとって難しい状況ですが、制度があり、130万円以内をキープすることに利得があれば、それをキープしようとする人間は必ずでてきます。それを一概に悪いとは言いませんが、労働人口減少局面にある現代の日本にとっては大きな損失なのは確か。
よって、わたしの考えとしては、いっそのこと、この壁を取り払うか、扶養から外れずに働くなんて実質できなように、半分以下まで壁を下げてしまうべきだと思います(当然、税と連動して)。
安倍内閣も一億総活躍を謳うなら、これくらいのことはすべきなのでしょう。こうした政策は政治家にとっての大きな支持基盤である主婦層のウケが悪いので、政治的になかなか難しいにしてもね。