労働保険・社会保険制度の解説

交通費入れる?入れない? 106万円の壁(月額8.8万円)の計算方法

2015年12月8日

平成28年の10月より、以下のように社会保険の加入条件が拡大され、

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
  3. 1年以上継続して雇用される見込みがある
  4. 従業員501人以上の企業(従業員の数に含めるのは現行の被保険者)
  5. 学生でない

 

以上の1.~5.のすべてを満たす場合、その労働者は社会保険に加入しなければなりません。

見ての通り従業員数501人以上の企業が対象ですので、基本的には大企業が対象となる制度。なので、自分の会社には関係ない、なんて思って、バックボタンを押すのはちょっと待ってください。この制度、3年後をめどに範囲が拡大される予定なので、その準備だと思って読んでいってくださいな。

で、今回取り上げたいのは上記の2.の条件「月額賃金8.8万円以上」というもの。いわゆる106万円の壁と言われているやつです。(106万円の壁の根拠は、8.8万円×12ヶ月=105.6万円。切り上げて106万円)

「106万円の壁」というキャッチフレーズが独り歩きしてる感がありますが、実際に重要なのは「月額賃金8.8万円以上」かどうかなので勘違いなきように!(ただし、便宜上、以下でも「106万円の壁」という言葉は使っています)

 

1. 106万円の壁(月額賃金8.8万円)の中に交通費は含めない?

改正される法律を読むと、

第十二条第一項
五 (略)
ハ 報酬(最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)について、厚生労働省令で定めるところにより、第二十二条第一項の規定の例により算定した額が、八万八千円未満であること。

※ 強調は筆者による

とあります。ふむふむ。

最低賃金法第四条第三項各号というのは、最低賃金に含めない賃金を規定した条文で以下引用。

第四条

3  次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一  一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二  通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三  当該最低賃金において算入しないことを定める賃金

※ 強調は筆者による

大雑把に言うと上の一は賞与やお祝い金、二は時間外・深夜手当て。

では、三は何かというと、「精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」を言うとされています(法律や省令で決まっているのではなく、厚労省の判断でそう決まっているに過ぎないけど)。

 

2. 標準報酬月額には交通費を含めるのが普通だが…

人事・労務のお仕事をされていたりして、社会保険の標準報酬月額の月額変更や算定基礎届の提出などをされたことのある方ならご存知かと思いますが、「精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」というのは社会保険料の算出に使う標準報酬月額を算定する際には、必ず含めないといけません。

特に通勤手当、つまり交通費は、3か月分や6か月分を前払いしている場合も、各月に按分して計算する必要があります。

しかし、社会保険への加入条件として計算する場合はこれらの手当を含めなくてもいいわけです。

いいわけです、とか言い切っておきながら、所用でこの辺りを調べていたわたしも実はこの件、半信半疑だったりして、「本当にそうなのか? そんなわけないんじゃないか?」とか思いながら、でも、条文上はそうとしか読めない。

なので、厚労省の他の資料見たら、

106万円の壁

参照:短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大(リンク先pdf)

やっぱり除外。

でも、あれだ、これは自分の勝手な思い違いで、実際には加入すべきだった、みたいなのが年金機構の調査でわかったりとかしたら自分のお客様にすごい迷惑かかると思ったので、そのへんを年金機構に直接聞いてみたら、

「まだ、上からの連絡がないのでわからない」

とのお達し(?)が。あのー、もう1年切ってますよー。

自分の想像と別の結果が出てきたせいか、社労士の専門分野で社労士のくせになんだかおっかなびっくり記事を書いてますが、法律と厚労省の資料を読む限り、

平成28年10月から従業員501人以上の企業では、

  • 社保加入時の報酬月額:精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を含めない
  • 社会保険料の報酬月額:精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を含める

というように計算をしないといけいないみたいです。

まあ、税法上の103万円は基本的に(非課税分は)交通費を含めませんし、それとの整合性を考えると106万円で交通費を含めないのはわからないでもない。というか、月に2万円交通費払ったら、1年で24万円。106万円と足したら130万円になるのだから、今のままでも加入しなくていい人もそれなりにいるのかもしれません。

 

でも、面倒だと思いますよ。大企業の人事労務担当者の方もそうですが、年金機構の職員さんが会社の調査をするときなんかも!

 

※ 追記:年金機構から確定情報来ました! 詳しくはこちらの記事をどうぞ

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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