就業規則

行政書士が作成した就業規則なんてリスクだらけで売れるわけねえだろうという話

2015年11月26日

タイトルで思いっきり行政書士に中指を立ててますが、記事の中身はFワード連発なので問題ありません。まあ、そこまで言ってるか、逝ってるかはわかりませんが(なぜ言い直した)、とりあえず、順を追って話していきましょう。

 

1. 就業規則作成は社労士の独占業務か

まず、非常につまんない話として、就業規則の作成が社労士の独占業務なのか、それとも行政書士も行っていいのかという話があります。全国社会保険労務士会連合会は当然社労士の独占業務だと主張していますが、日本行政書士会連合会の方はいやいや行政書士もやってもいいだろと言っています。

でね、日本の労務行政を管轄する厚生労働省は社労士の独占業務だと言っている(基監発1221第1号 平成23年12月21日)のですが、これについても行政書士会の方は厚労省の見解は行政の見解であり、司法の見解ではないということで聞く耳持たない様子。

 

1.1. 行政書士の作成した就業規則で会社を守れるのか

どうしてこんな意見の相違があるのかについては就業規則の法的性質に関わることなのですが、今回は省略。つーか、正直どうでもいい。大事なのは、

行政書士の作成した就業規則で会社を守れるのか

ってことだから。

ちなみに、全国社会保険労務士会連合会と日本行政書士会連合会の争いについて詳しく知りたかったらこちらの記事をどうぞ。

【会計士Xの裏帳簿】社労士VS行政書士 「就業規則」作成業務の対立が表面化

以下の話は基本的に10人未満の会社の就業規則作成ではなく、監督署に就業規則を提出する必要のある10人以上の会社の作成についてなのであしからず。あと、当然、社労士と行政書士のダブルライセンスで活動する先生方を貶める意図もありません。

 

2. 社労士は労働法の専門家、じゃあ行政書士は?

2.1. 行政書士は労働法を知らない

言うまでもなく、社会保険労務士は労働法の専門家です。就業規則の作成には労働基準法や労働契約法などの労働法の他に労災・雇用、社会保険、最近では育児介護休業についての知識も必須です。これらはいずれも社労士試験の必須科目ですから、社労士が精通しているの当然。

一方の行政書士試験の必須科目で法令科目については

憲法・民法・商法・行政法・基礎法学

と、見ての通り、労働法は関連法令も含めて1つもありません。社会保険法だってありません。

労働法も社会保険法も知らずにどうやって就業規則を作るのでしょうか。

 

2.2. 商品としてのクオリティはあるか

いや、作成はできるかもしれませんよ。会社によっては人事労務担当者が作成したりもしますし、厚生労働省のウェブサイトにはモデル就業規則もある。これをちょちょいといじれば作成はできるかもしれませんが、それは果たして人に売れるレベルに達しているかは疑問大。

このサイトは私自身が10月にwixからWordPressに移行し、BizVektorのテーマのCSSを一部変更したりして運用しています。そのためにサーバーも借りたし、2段階認証を入れたりSSLを入れたりとサイトのセキュリティにも気を使っていますが、じゃあ、お金をもらって他人のサイトを作成するかといったらそんなことは絶対しません。

お金をもらうというのはその分責任を追う必要があるからです。素人に毛の生えたレベルで人様のウェブサイトを作成してそれでサイトを乗っ取られたりしても、わたしは責任が持てない。だからやらないわけです。

さて、労働法の専門家でない行政書士が、就業規則の作成によって生じた責任を負えるのでしょうか(反語)。

 

3. 就業規則作成は会社がステップアップした証拠

3.1. 就業規則を作成しないといけない規模にかいしゃがなったということは

就業規則を作成する義務のある規模まで来たということは、それだけ労働者が増え、会社が大きくなったということです。

労働者が増えれば、労使間で問題が起きる可能性も増えます。だいたい、労働者の数が10人を超えると、1人くらいおかしな人が入ってくるものです。また、人事労務のコンプライアンスについて疎かにしていた会社が、監督署の最初の洗礼に合うのもだいたいこれくらいの規模の会社になった頃が多いと個人的には感じています。

となると、仮に今まで36協定を出さずに時間外労働をさせていたとしたら36協定を出さないといけないし、変形労働時間制の届出なしで変形労働時間制を敷いていたのなら届出を出さないといけなくなる。

会社からしたら面倒この上ないかもしれませんが、でも、そうした人事労務のコンプライアンス問題に直面するというのは、それだけ会社がステップアップした証拠で会社の経営者は誇ってもいいくらいだとわたしは思います。労働者がいなければ監督署がやってくることも、書類を提出する必要もないかもしれませんが、同時に売上もないわけですから。

 

3.2. 労働法を知らない人間に労務を任せるリスク

で、そうしたステップアップの時期にある会社が、人事労務の最も核とも言える就業規則を専門家もどきに委ねるというのは、かなりのリスクがあるんじゃないか、と思うわけです。

百歩譲って就業規則を作成・提出ができたとしても、行政書士には36協定や変形労働時間制の届出は出せません。監督署の調査が入っても対応はできないし、是正勧告を出されても是正報告書も出せません。言うまでもなく監督署というのは、就業規則の作成・提出は社労士の独占業務だといっている厚生労働省の管轄組織なわけですが、そうした場に行政書士がノコノコ出向いて、何ができるというのか。

別に会社が10人超えたら必ず社労士を付けたほうがいいとまでは言いませんが、人事労務について、側に置いておくなら知識の面でも実務の面でもアフターサービスでも緊急時対応でも、行政書士よりも社労士のほうがいいのは間違いない。つーか、行政書士に何ができるの?

(社労士にも行政書士にもピンキリいるってのは当たり前のことだし、ここでは問題にしてないからつまんないツッコミはやめてね)

 

4. 就業規則作成は社労士の独占市場

4.1. 就業規則を作成しようと思ったときに行政書士の顔が浮かぶか

さて、長々とフ◯ックファ◯ク言いながらここまで書いてきましたが、上記のことを全て置いておいても、就業規則を作成しようと考えている会社の社長さんがその作成を行政書士に頼むなんてまず考えられません。

就業規則を作成したい、と思った時にパッと行政書士が思い浮かぶ人というのはまずいないでしょう。まあ、残念ながら社労士がパッと思い浮かぶ人もそう多くはないかもしれませんが。でも、ネットで就業規則について検索すれば社労士事務所の名前がずらりと並んで「専業の」行政書士の名前なんて全く出てこない。(就業規則関連の用語はSEO的には超激戦区で、社労士同士が血で血を洗っているのだ)

また、どうしたらいいか監督署に相談した場合、実際の監督署の職員がどう言うかは知りませんが、少なくとも、社労士を勧めることはあっても、行政書士を勧めることはまずないでしょう。知り合いの他の会社の社長に就業規則を誰に作ってもらったか聞いても、社労士もしくは自社で、がほとんどでしょうから行政書士の名前が出くるとも思えない。

要するに、法的に独占業務かどうかは置いておいて、就業規則作成の市場自体は社労士が独占していて、クチコミ等の面でも断然有利と考えられるわけです。作成できる、というのと、それを売れる、というのとでは全く違うことであり、個人的には行政書士が就業規則を売れる導線が全く見えないし、ましてや社労士の市場を脅かす程に成長するとも思えない。

だから、わたしは行政書士が就業規則について何言おうが気にしません。そんなこと気にするくらいなら、自分の作成する就業規則の品質を高めることに注力しますよ。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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