令和6年の通常国会では育児・介護休業法等について大きな改正が行われました。そして、これと併せて雇用保険の育児休業給付についても、2つの新制度が創設されるなど、大きな改正が行われています。
今回は令和6年6月の通常国会で成立した改正雇用保険法の中から、育児休業等給付について解説します。
この記事の目次
1. 育児休業等給付の創設
現行の雇用保険の育児休業給付は育児休業給付金および出生時育児休業給付金の2つで構成されており、この2つをまとめて呼称する場合に育児休業給付という言葉が使われています。
しかし、今回の改正で、育児休業給付と同列となる2つの新制度(出生後休業支援給付および育児時短就業給付)が創設されたました。これを受け、育児休業給付と他の2つの制度を総称するためのものとして育児休業等給付というものが新たに設けられます。
ただ、こちらについては制度の整理のために設けられるだけなので、実務への影響はほぼないと考えて問題ありません。
行政の資料などを読むときに「育児休業等給付」とあったら、育児休業給付金その他の制度を含めて言っている、と思う程度で大丈夫です。
2. 出生後休業支援給付の創設
育児休業等給付の一つとして新たに創設されるのが出生後休業支援給付です。
こちらは子の出生後間もない期間に両親がともに育児休業を取得することを促進するためのもので、要件を満たした場合、育児休業給付とは別給付として支給されます。
制度の詳細は以下の通りです。
2.1. 出生後休業支援給付の支給条件
① 出生後休業を開始した日前2年間に、みなし被保険者期間が通算して12か月以上
出生後休業支援給付の支給条件の一つ目は「出生後休業を開始した日前2年間に、みなし被保険者期間が通算して12か月以上」です。こちらについては、みなし被保険者期間の起算日以外は育児休業給付金の条件と同じなので問題ないかと思います。
なお、同じ子について2回以上出生後休業をした場合(※)は初回の出生後休業を基準にみなし被保険者期間を数えます。
※ 育児休業及び出生時育児休業は2回に分けての取得が可能
② 対象期間内にした出生後休業の日数が通算して14日以上であるとき
2つ目の支給条件は「対象期間内にした出生後休業の日数が通算して14日以上であるとき」です。
ここでいう対象期間とは、出生後休業をするのが夫や養子の父母(被保険者がその子について産後休業をしなかった場合)にあってはその子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間をいいます。
一方、出生後休業するのが実母(被保険者がその子について産後休業をした場合)にあっては、その子の出生の日から起算して16週間を経過する日の翌日までの期間となります。
なお、主に男性側の条件となる「出生後8週間以内」の対象期間については、取得するのが育児休業であっても出生時育児休業のどちらであっても構いません。(男性の場合、出生後8週間以内については、育児休業も出生時育児休業も取得できる)
③ 当該被保険者の配偶者が当該出生後休業に係る子について出生後休業をしたとき
最後の3つめの条件は「当該被保険者の配偶者が当該出生後休業に係る子について出生後休業をしたとき」です。
こちらは、本制度の概要で述べた、両親が共に出生後休業をした場合のことをいいます。
また、取得した出生後休業の日数についても条件があり、「当該配偶者が当該子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間内にした出生後休業の日数が通算して14日以上である」こともまた条件となっています。
なお、「共に出生後休業」とありますが、これは必ず夫と妻が同じタイミングで出生後休業を取らなければならない、という意味ではありません。そもそも、夫の対象期間中、妻は産後休業中途なるので、養子の父母出ない限りは、同タイミングで取得することは不可能となっています。
出典:「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の改正内容(厚生労働省)
2.2. 出生後休業支援給付の支給額
出生後休業支援給付の支給額は、当該被保険者が出生後休業を開始した日の前日を受給資格に係る離職の日とみなした場合に算定される賃金日額に相当する額の100分の13で、対象期間に14 日以上の育児休業を取得した場合に28 日間を限度に支給されます。
要するに休業開始前の賃金を日額にしたものの13%が最大28日分、出生後休業支援給付として支給されるわけです。
これにより、既存の育児休業給付の給付率67%と併せて、出生後に両親で育児休業を取得する被保険者の給付は、休業開始前賃金の80%となります。
休業開始前賃金80%という金額は賃金に直すと、手取額のほぼ100%です(賃金の総支払額からは所得税や社会保険料が引かれるが、育児休業等給付は非課税かつ、社会保険料の対象にもならないので)。
2.3. 配偶者が雇用保険の被保険者でない場合の出生後休業支援給付
出生後休業支援給付は両親がともに育児休業を取得することを前提とする制度ですが、一人親家庭のようにそれができない家庭もあります。また、配偶者がフリーランスの場合など雇用保険に入っていない場合もあります。
こうした家族構成や働き方による不公平をなくすため、出生後休業支援給付は、配偶者が育児休業を取得できない以下の者であっても、2.1の①と②の要件に該当するときは出生後休業支援給付が支給されます。
- 配偶者のない者その他厚生労働省令で定める者である場合
- 当該被保険者の配偶者が適用事業に雇用される労働者でない場合
- 当該被保険者の配偶者が当該出生後休業に係る子について産後休業等をした場合
- 1.から3.までに掲げる場合のほか、当該被保険者の配偶者が当該出生後休業に係る子を養育するための休業をすることができない場合として厚生労働省令で定める場合
3. 育児時短就業給付の創設
育児休業等給付のもう一つの新しい制度が育児時短就業給付です。
この育児時短就業給付とは、被保険者が育児のための短時間勤務を行う労働者に支給されるものです。短時間勤務を行う場合、労働時間が短くなった分の賃金が減額されるのが一般的ですが、その減額分の一部を補助する給付が育児時短就業給付となります。
以下では、この育児時短就業給付の概要について解説します。
3.1. 育児時短就業給付の支給条件
育児時短就業給付の支給条件は以下の通りです。
- 2歳に満たない子を養育するため、所定労働時間を短縮することによる就業をした場合
- 育児時短就業を開始した日前2年間に、みなし被保険者期間が通算して12か月以上であったとき(育児休業給付の支給を受けていた場合であって、当該育児休業給付にかかる育児休業終了後、引き続き育児時短就業したときも同様)
なお、時短勤務時の労働時間や時短勤務で労働する日数については、特に制限はありません。
3.2. 育児時短就業給付の支給額および賃金との調整
育児時短就業給付の支給額は、支給対象月ごとに、当該支給対象月に支払われた賃金の額に100の10を乗じて得た額となります(その額に当該賃金の額を加えて得た額が支給限度額を超えるときは、支給限度額から当該賃金の額を減じて得た額)。
ただし、時短勤務中であっても給与があまり下がらない場合、出生後休業支援給付の支給額は調整されます。
具体的には、育児時短就業給付の支給対象の月に支払われた賃金額が、育児時短就業給付就業開始時賃金日額(当該被保険者が育児時短就業を開始した日の前日を受給資格に係る離職の日とみなした場合に算定される賃金日額に相当する額)に30を乗じて得た額の100の90に相当する額以上であるときが調整の対象です。つまり、短時間勤務を開始する前の賃金の約90%以上の賃金額が短時間勤務中も支払われていると、給付額の調整対象となるわけです。
この調整は、短時間勤務中に支払われる賃金額が、育児時短就業開始時賃金日額に30を乗じて得た額の100の90を超える大きさの程度に応じ、100の10から一定の割合で逓減するものとされています。
この逓減率は、時短勤務中の賃金と出生後休業支援給付の合計が時短前の賃金の100%を超えない範囲で省令にて定められる予定です。
出典:「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の改正内容(厚生労働省)
4. その他
4.1. 関連記事
その他、令和6年の通常国会で改正された、雇用保険に関する解説は以下をどうぞ。
4.2. 参考資料
雇用保険部会報告(職業安定分科会(第202回))(リンク先PDF 出典:職業安定分科会)
第213回国会(令和6年常会)提出法律(出典:国会提出法案│厚生労働省)