令和6年の通常国会で改正が行われた雇用保険法ですが、過去の記事で見た以外に、教育訓練給付についても改正が行われています。
教育訓練給付とは、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用等の一部が支給される制度です。
この記事ではそんな教育訓練給付の改正の概要について見ていきます。
この記事の目次
1. 支給上限割合の増加と専門実践教育訓練の追加給付
教育訓練給付制度の一つである教育訓練給付金は、その対象となる訓練のレベル等に応じて、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類に分けられており、それぞれ対象となる訓練や、支給される教育訓練給付の額が変わります。
専門実践教育訓練 | 特定一般教育訓練 | 一般教育訓練 | |
対象となる訓練 | 労働者の中長期的キャリア形成に資する教育訓練が対象 | 労働者の速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練 | その他の雇用の安定・就職の促進に資する教育訓練 |
給付 | 受講費用の50%(年間上限40万円)が訓練受講中6か月ごとに支給
資格取得等をし、かつ訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給 |
受講費用の40%(上限20万円)が訓練修了後に支給 | 受講費用の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給 |
その他 | 失業状態にある方が初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する場合、受講開始時に45歳未満であるなど一定の要件を満たせば、別途、教育訓練支援給付金が支給 | ー | ー |
出典:厚生労働省
1.1. 専門実践教育訓練の追加給付
今回の改正で、教育訓練給付金全体の支給上限割合が、100分の70から100の80に変更されました。
ただ、現行法で教育訓練給付金の上限である100分の70が支給されるのは専門実践教育訓練のみです(50%+20%)。なので、実質的には専門実践教育訓練の上限が変更されたといえます。
なお、今回の改正で引き上げられた10%の部分は、単純な支給割合の増加ではなく、教育訓練受講による賃金増加や資格取得等の要件を満たした場合の新たな追加給付として支給が行われる予定です。
どういうことかというと、現行の専門実践教育訓練の支給率は受講費用の50%(年間上限40万円)、資格取得等をし、かつ訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給されているのですが、これに加えて、条件を満たした場合、さらに10%分の追加給付が行うということです。
この追加給付に関しては年間上限の金額が8万円、追加給付の条件となる賃金増加については賃金が5%以上とされることが予定されていますが、正式な決定は法改正後に行われる省令の改正を待つ必要があります。
教育訓練給付金の上限の引上げに関する改正は、令和6年10月1日施行です。
1.2. 特定一般教育訓練の追加給付
なお、教育訓練給付金の追加給付については、特定一般教育訓練(原則の給付は受講費用の40%、上限年間20万円)についても行われる予定です。
具体的には、資格取得等した場合に受講費用の10%(上限年間5万円)という数字が予定されていますが、こちらも正式には、法改正後の省令改正を待つ必要があります。
2. 教育訓練休暇給付金の創設
法改正前の雇用保険法の教育訓練給付制度の給付は、上でみた教育訓練給付金のみでした。専門実践教育訓練や一般教育訓練などは、これを細分化したものに過ぎません。
しかし、今回の改正では、教育訓練給付金とは別に、教育訓練休暇給付金というものが新たに創設されます。
この教委行く訓練休暇給付金とはは、労働者が自発的な能力開発のため、被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるための基本手当に相当する給付金となります。
以下ではその詳細について見ていきますが、基本手当に相当する給付金ということもあり、その支給条件は基本手当を踏襲したものとなっています。
2.1. 受給対象者
教育訓練休暇給付金の対象者は雇用保険の一般被保険者に限られます。
在職中の休暇取得時という前提があるため、離職者は対象とならないところが教育訓練給付金とは異なる点です。
2.2. 受給資格
教育訓練休暇給付金の取得に関しては、当該教育訓練休暇を開始した日(以下「休暇開始日」という。)前2年間におけるみなし被保険者期間が、通算して12か月以上必要です。休暇取得中は離職しているわけではないので、育児休業給付金や高年齢雇用継続給付金のように「みなし被保険者期間」という言葉を使用します。
ただし、みなし被保険者期間が12か月以上あったとしても、休暇開始日の前日から数えて、算定基礎期間に相当する期間が5年に満たないときは対象となりません。
2.3. 受給期間
教育訓練休暇給付金の受給期間は、休暇開始日から起算して1年間です。教育訓練休暇給付金は、この期間内の教育訓練休暇を取得している日について支給されます。
2.4. 日額および所定給付日数
教育訓練休暇給付金の1日当たりの給付額は、休暇開始日の前日を受給資格に係る離職の日とみなした上で計算しますが、その計算方法は基本手当の日額の計算方法と同じです。
また、教育訓練休暇給付金の所定給付日数についても、特定受給資格者以外の受給資格者に対する所定給付日数に相当する日数分を限度として、支給するものとされています。つまり、算定基礎期間によって90日、120日、150日のいずれかになるということです。
2.5. 基本手当との関係
教育訓練休暇給付金の支給を受けたことがある場合、休暇開始日前における被保険者であった期間は、基本手当の受給資格を判断する際の被保険者期間に含めません。
また、休暇開始日前の被保険者であった期間及び当該給付金の支給に係る休暇の期間については、基本手当の所定給付日数を決める算定基礎期間から除かれます。
つまり、教育訓練休暇給付金の支給を受けた場合というのは、基本手当の支給を受けたのと同じ扱いとなるわけです。
ただし、教育訓練休暇給付金の支給を受け、休暇開始日から当該教育訓練休暇給付金に係る教育訓練休暇を終了した日から起算して6か月を経過する日までに特定受給資格者となる離職理由により離職した者(受給資格者を除く。)に対しては、例外的に基本手当が支給され、その際の所定給付日数は90日(身体障害者等の就職困難者にあっては、150日)となります。
2.6. おまけ:教育訓練休暇の導入
教育訓練休暇給付金の概要は以上の通りですが、こちらは、会社に自発的な訓練のための休暇制度がなければ、そもそも教育訓練休暇給付金の活用はできません。
令和4年度の能力開発基本調査における教育訓練休暇制度の導入状況は「導入している」とする企業はわずか7.4%であったことを考えると、改正法施行の前後から、行政による教育訓練休暇制度導入のための施策が実施されることが予想されます。
教育訓練休暇給付金に関する改正は令和7年10月1日施行です。
3. 教育訓練支援給付金の縮小
専門実践教育訓練の教育訓練給付金を受給しているもののうち、一定の要件を満たした人が失業状態にある場合、教育訓練支援給付金が支給されます。
こちらは、平成26年の改正で5年間の暫定措置として始まり、現在は令和6年度末までの暫定措置とされているものですが、今回の法改正でさらに令和9年3月31日まで制度が延長される一方で、給付率については、令和7年4月1日より、現在の基本手当日額の80%から 60%に引き下げられます。