労災・雇用保険の改正

基本手当の給付制限期間が令和7年4月よりさらに短縮へ

2024年6月19日

労働者が正当な理由のない自己都合退職を行った場合、給付制限期間が設けられるため、退職後すぐに基本手当(失業保険)をもらうことはできません。なぜ、このような給付制限期間があるかというと、それは基本手当をもらうことを目的に入退社を繰り返すことを防止するためです。

ただ、その一方で、こうした給付制限が、労働者の円滑な労働移動を阻害しているとの見方もあります。また、ここ最近、政府は方針として、円滑な労働移動による労働市場の活性化を目指していることもあり、令和6年の雇用保険法の改正と併せて、給付制限期間が見直されることになりました。

 

1. 自己都合退職者の給付制限期間等について

1.1. 給付制限期間は2か月→1か月に

実は今回の改正に先立ち、労働者の正当な理由のない自己都合退職を行った場合の給付制限期間については、令和2年10 月より、もともと原則3か月とされていた給付制限期間が2か月に短縮されています。

ただ、転職を試みる労働者が安心して再就職活動を行えるようにするため、今回の法改正のタイミングで、これをさらに1か月に短縮すべきと、労働政策審議会で報告がなされていました。

とはいえ、すでに述べたとおり、給付制限期間が短縮されると、どうしても基本手当目的の短期で入退社を繰り返す人が出てきます。なので、現行の制度ではこれを防止するため、5年間で3回以上、正当な理由のない自己都合退職を行った人に対しては、給付制限期間を2か月ではなく3か月とする取扱いをしているのですが、この取扱いは給付制限期間が1か月に短縮された後も維持されます。

こちらは法改正ではなく、通達ベースでの変更なので、本記事が公開された6月末の段階ではまだ確定事項ではありませんが、予定どおり変更が行われた場合、その適用は令和7年4月1日からとなります。

 

1.2. 自己都合退職者の給付制限期間等についてのまとめ

給付制限期間
令和2年9月以前 3か月
令和2年10月以降 2か月(※)
令和7年4月以降 1か月(※)

※ 5年間で3回以上、正当な理由のない自己都合退職を行った人については3か月

 

2. リ・スキリングを伴う自己都合退職

給付制限については「自己都合退職者の給付制限期間等の短縮」とは別に、一定の要件を満たした場合に給付制限期間そのものを解除する改正も行われています。

この一定の要件とはいわゆる「リ・スキリング(学び直し)」に関連したもので、

以下の要件を満たす場合、給付制限自体が解除されるので、待機期間後、すぐに基本手当をもらうことができます。

  1. 公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける受給資格者
  2. 教育訓練給付金の対象となる教育訓練その他の厚生労働省令で定める訓練を基準日(※)前1年以内に受けたことがある受給資格者(正当な理由がなく自己の都合によって退職した者に限る。3において同じ)
  3. 2に規定する訓練を基準日以後に受ける受給資格者

※ 当該基本手当の受給資格に係る離職の日

 

これらは、自ら教育訓練を行って再就職を目指す労働者が円滑に求職活動を行えるようにするための措置となります。

このリ・スキリングを伴う自己都合退職者の給付制限の解除に関する改正は、令和7年4月1日施行です。

 

3. まとめ:企業実務への影響

給付制限期間が見直し自体は、会社が実務で何かしないといけないことというのは特にありません。

そのため、給付制限期間短縮あるいは解除による企業実務への影響というのは、あまりないように思えます。

一方、給付制限期間短縮や解除について、労働者側での周知が広がると、労働者側のマインドには一定の影響があるとみられます。要するに、今までよりも軽い気持ちで会社を辞めていく人が増える可能性があるわけです。

そのため、会社としては人材流出を避けるための対策を、これまで以上に行っていく必要が出てくるかもしれません。

給付制限期間の短縮、解除のイメージ図

出典:「雇用保険法等の一部を改正する法律」の改正内容厚生労働省

 

4. その他

4.1. 関連記事

その他、令和6年の通常国会で改正された、雇用保険に関する解説は以下をどうぞ。

 

4.2. 参考資料

雇用保険部会報告(職業安定分科会(第202回))(リンク先PDF 出典:職業安定分科会

第213回国会(令和6年常会)提出法律(出典:厚生労働省)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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