先週ですが、福岡の方に行ってました。
実に6年ぶりの九州、あのとき乗った特急ソニックは今もいろいろな意味で忘れられませんが、まあ、それはさておき。
今回、福岡に行ってきたのは「株式会社障害者つくし更生会」を見学するためでした。
この記事の目次
1. 障がい者法定雇用率100%の営利企業
株式会社障がい者つくし更生会という会社は、福岡県大野城市にある資源ゴミの選別・不燃物のゴミ処理施設を、行政から委託を受けて管理している会社です。
このつくし更生会では、現在37名の方が働いていますが、その内32名は身体、知的、精神といった何らかの障害を持つ人たちです。
また、32名のうち5名は重度障害のため、法律上の計算では(重度障害者を2人で計算する関係で)障がい者の法定雇用率は100%を超えます。
1.1. 「福祉をやってるつもりはない」
さて、会社名に「障がい者」と入っていて、しかも「行政からゴミ処理施設の委託を受けている」と聞くと、行政主体とか、福祉とか補助金といったイメージを持つ人もいるかもしれませんね。
でも、つくし更生会はれっきとした「株式会社」であり、営利企業であり、補助金に頼ることなくきちんと利益を上げている会社です。
経営者の方も「福祉をやってるつもりはない」と断言します。
1.2. 行政から毎年選ばれる会社
それが事実である証拠に、施設の委託契約に関しては、他の候補となる会社がいくつもある中から選ばれて管理をしています。
しかも、行政の方からは、複数年(何なら永続でも良いくらい)で委託したいと言われているにもかかわらず、会社の方から「それだと社員が成長しなくなる」「緊張感がなくなる」「他の会社にもチャンスをあげないと行けない」(!?)などの理由で、つくし更生会の方から「1年でいい」と毎年契約更新を続けているのです。
それにしても、どうして障がい者を多く雇用しながら、行政から選ばれるだけの仕事ができているのでしょうか。
2. 面倒なことをきめ細かく
2.1. 資源ゴミの選別・不燃物のゴミ処理施設の仕事とは
その理由を知るには、資源ゴミの選別・不燃物のゴミ処理施設の業務がどのようなものかを知るところから始めた方が良いでしょう。
資源ゴミの選別・不燃物のゴミ処理なので、当然、市内からそういった資源ゴミや燃えないが集まってきます。空き缶や空き瓶、ペットボトルや小さな家電などですね。
つくし更生会が管理する施設には、大野城市と春日市の市民約21万人分のゴミが、毎日だいたい7~8トン運ばれてきます。
2.2. 手作業による選別
そして、運ばれてきたゴミには、例え「空き缶用」のゴミ袋であったとしても、空き缶以外のものが入ってるなんて日常茶飯事です。
こうした余計なものが入っているとリサイクルできない上、リチウム電池や中身の入ったスプレー缶などが混入していると、後でプレスしたときに爆発する恐れもあり非常に危険です。
そのため、こうした余計なものを取る作業を人間、つまり、つくし更生会の従業員の方が手作業で行っています。
これは空き瓶やペットボトルなども同様で、特に空き瓶なんかは、中身が入ったままだと不衛生な上、リサイクルにも支障を来すので、そういったものの中身をきちんと洗うといった作業も行います。
2.3. きめ細かさが「品質」に繋がる
聞いてるだけでも、面倒そうな仕事に思えると思いますが、こうした面倒なことを、つくし更生会ではきめ細かく、正確に行うため、リサイクル業者に渡される資源ゴミの質は非常に良くなっています。
また、こうしたきめ細かい対応は、破砕機(資源にならないゴミを粉々にするための機械)やプレス機などの設備の寿命の延長にも貢献していて、他と比べても設備の維持費が抑えられているそうです。
設備が壊れたり、部品の摩耗が早いとなると、それを直すお金を出す側である行政にはいい顔はされませんから、こうしたところにもつくし更生会が選ばれる理由があるわけです。
3. 最終処分場の「品質」ときめ細かさ
さて、資源とならなかったゴミは当然、最終処分場に埋め立てることになりますが、ここでも、きめの細かさが品質に繋がっています。
最終処分場における品質、と言われてもピンとこないかもしれませんが、ここでいう品質とは衛生面と処分場の寿命と考えてください。
3.1. 最終処分場の衛生面
まず、衛生面の話をすると、ゴミを埋め立てた土地に雨が降ると、それが土壌にしみ出し、土壌や周囲の河川の汚染が進みます。
こうしたことを避けるため、薬剤などで中和させるところが多いのですが、つくし更生会が管理する最終処分場では、そうしたことが必要ないレベルで衛生的となっています。
実際に現地で見学させてもらったときも、嫌な匂いなども一切ありませんでしたし、最終処理したゴミも、手で触ることに抵抗がわかないくらい綺麗でした。
3.2. 最終処分場の寿命
処分場の寿命に関しても、写真で見てわかるとおり、決して広い土地ではないにもかかわらず、平成6年から使って、使用率は47%と未だに50%を切っています。
最終処分場を新たに作るとなると、土地の確保や近隣住民の反対などが起こります。
そうなると、行政は大変苦労をするため、同じ最終処分場を長く使えることは、行政側からしてみても非常に重要なことであり、それに貢献するつくし更生会は最高の委託業者といえるわけです。
4. つくし更生会の人を育てる力
日本全国を探しても、資源ゴミの選別・不燃物のゴミ処理をここまで綺麗に、きめ細かくできるところはありません。
他のほとんどの施設では、こうした処理を健常者が行っているにもかかわらずです。
どうしてそんなことができるのか、といえば、それはつくし更生会が「人を大切にしている」からだと思います。
ここでいう「人を大切にしている」というのは「従業員をその家族も含め大切にしている」「従業員をきちんと育てている」「人同士の関係性に気を配っている」「組織感情に気をつけている」などといった、複合的な意味です。
例として、つくし更生会の「従業員をきちんと育てている」という面をピックアップして見ていきましょう。
4.1. 「できる」ということを前提に
つくし更生会では、どのような障がいがあろうと、基本的に「できる」ことを前提に業務を任せるそうです。
とはいえ、それを任される方から「できない」と断られることもあります。
普通の福祉施設や、あるいは一般の会社でもそうかもしれませんが、相手(健常者であっても、障がい者であっても)から「できない」って言われたら、じゃあ「やらせない」となるのが、良くも悪くも普通の組織でしょう。
会社によっては、断った、と言うことだけを表面的に見て、業務命令に反したといって懲戒対象にするところだってあるかもしれません。
4.2. 「できない」の裏側にあるもの
しかし、つくし更生会では、本人が「できない」と言っていることの裏側を考えます。
経験がないからできないと思ってるなら、徐々に経験を踏ませていきますし、自信がないなら、自分に自信を持てるよう、会社内でできることを増やすといったことをします。
このような段取りを地道にしていくと、ある日、できるかどうかを確認したときには、相手から「やれます」と返事が返ってくるそうです。
もちろん、障がい特性によってはどうしても無理、ということはありますが、少なくとも本人から「できない」と言われたことを、言われた側が「本人が言ったから」と言い訳にしてやらせない、ということはつくし更生会ではありません。
4.3. 障がい者のほとんどが資格保持者
ちなみに、つくし更生会の従業員のほとんどはフォークリフトやクレーン、危険物取扱など、何らかの資格を持っています。
資格を持っているので、当然、フォークリフトやクレーンの操作は、障がい者の方が行います。
言い換えれば、障がい者には安全な業務だけをやらせて、危ないことは健常者がやっているということはなく、その辺りも分け隔てなく業務を行っているということです。
5. 誰もが手にできる奇跡
営利企業として障がい者法定雇用率100%を達成するつくし更生会のことを「奇跡の会社」と呼ぶ人も少なくありません。
しかし、つくし更生会の奇跡は「モーセの海割り」のような、奇跡然とした奇跡ではありません。
つくし更生会の奇跡は、地道に時間をかけ、試行錯誤を積み重ねた上に成り立っているものであり、実際、今回の見学会でお世話になったつくし更生会の那波和夫専務は、これまでの経験や取り組みを完全に言語化されています。
つまり、つくし更生会の取り組みは、海割りのように誰にも真似できないものではなく、時間はかかるかもしれないし、全部を全部というのは無理かもしれないにしても、他の会社でもつくし更生会の取り組みを参考にし、真似ることができるものと言うことができるでしょう。
最後になりますが、今回の記事で、少しでもつくし更生会に興味をもたれた方は、那波専務が登壇された第3回重度障がい者社会支援フォーラムをご覧いただくと、ここで書いたこと以外の、つくし更生会の様々な取り組みを知ることができますので是非!
今日のあとがき
見学会中は、とにかく感動しっぱなしだったんで、福岡から帰ってきて、事務所の人にはもちろん、お客さんにもつくし更生会の話を何度もしています。
ただ、それだけじゃ満たされないというか、正直「つくし更生会ロス」気味なので、また機会を見つけて行きたいなあというのが正直な気持ちです。