何かを予測するにしても、何かを評価するにしても、人の判断にはエラーが混ざることが多い。
そのエラーはバイアスによって起こることもあれば、ノイズによって起こることもある。
バイアスとは判断の偏りで、ノイズとは判断のバラツキのことだ。
この記事の目次
1. バイアスとノイズ
1.1. バイアス
人間の脳も動物の脳であることには変わりなく、知性以外に本能の部分を多く持っている。
バイアスはそうした本能に基づくため、じっくり考えず直感的(本能的)に判断する場合、バイアスを生みやすい。
逆にいうと、バイアスはそれに自覚的で有り、じっくり考えることである程度防ぐことができる。
1.2. ノイズ
しかし、バイアスを取り除いてもエラーは起こりうる。
その原因がノイズだ。人の判断はばらつく。
別々の人が同じことを評価しても、評価が同じになるとは限らないし、同じ人が同じことを判断したとしてもバラツキが出ることはある。
例えば、人事評価の場合、評価者によって判断にバラツキがあるのは誰でも知っている。
また、評価者が同じで、評価される側は何も変わっていないのに、評価が以前と変わるということもある。
裁判官の量刑や医者の診断にもバラツキがあることは統計的にわかっている。
人事評価のエラーで人が死ぬことはないが、裁判官や医師の判断のエラーは、人の人生に関わる。
2. ノイズを減らすために
では、こうしたノイズを減らすにはどうしたらいいのだろうか。
ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・サンスティーン著「NOISE」では、以下のような方法が挙げられている。
2.1. ルール・アルゴリズム
一つにはルールやアルゴリズムを使うことだ。
判断を機械的にしたり、あるいはまるっきり機械に任せた方がノイズは減る。
逆にいうと、それくらい人の判断にはノイズが混じるということだ。
2.2. 判断の統合
複数人の判断を統合するという方法もある。
個人個人の判断は確かにノイズが入っているかもしれないが、それを統合することでノイズを減らすことができる。
この場合、個人の判断は独立したものでなければならない。
でなければ、他者の判断がバイアスとなって他のエラーを生む可能性があるからだ。
2.3. ケース尺度
判断にケース尺度というものを用いる方法も有効だ。
ケースとは事実や事例、エピソードのこと。
特定のケースを判断の基準(アンカー)にし比較すれば、少なくともその基準から大きく離れた判断になることはない。
筆者が生業にしている社会保険労務士の業界では、法律の細かい判断において、各種裁判の判例や行政の出すガイドラインで示される事例がこうした役割を担う。
その他、一つの判断を、細かい項目(タスク)に分解し、各項目ごとに判断したり、バイアスと同じように、それに自覚的で有り、じっくり考えることも有効だ。
3. 人事評価制度とノイズ
人事評価の話をすると、評価者によって判断にバラツキが出るのであれば、評価者同士の判断を統合すればいい。
そして、統合する際にはエピソードを用いることで、そのエピソードを基準に評価項目を評価することがで、判断のエラーを減らすことができる。
一方で、いわゆる360度評価と呼ばれる手法なら、社員一人一人が評価者になるのでよりよいのではと思うかもしれない。
しかし、その社員一人一人の評価はなにかしらのケース尺度に基づくものだろうか? あるいはそれをバイアスを挟むことなく統合することができるのか? という問題は残る。
近日正式リリースされるTNC(※)の「ひとまる」という人事評価制度でも、当然、上記のようなシステムは組み込まれているので、興味のある方はとりあえず筆者にお問い合わせいただくか、以下のURLより、正式リリースの報をお待ちいただければと思います。
※ いい会社を支援するコンサルティングファーム。筆者もメンバーの1人
本書は明日から使える小話満載だった「ファスト&スロー」に比べると若干難しいと感じるかもしれない。
特に、そのノイズを減らすための方法は、バイアスを避ける方法ほど簡単ではない上、人の反発も招きやすい。
それでも、本書が「ファスト&スロー」と合わせて読むべき名著であることは間違いない。
今日のあとがき
なんか記事の最後のせいで、まるで記事広告やステマみたいになっちゃいましたが、別にそういった意図があったわけではありません。
単純にカーネマン他のNOISEを読んでたら、TNCのひとまると共通する部分がいっぱいあるやんけ、と思ったんで、最後付け加えてみただけなんですけどね。