連日のように「4630万円」という数字が飛び交っておりますね。
誤振込をされ、最終的に容疑者となってしまった人物については正直語ることはないというか、「お前が悪い」という話なので、人事労務的に何も言うことはありません。
一方で、人事労務、働き方に携わる人間として見過ごせないのは、こうしたミスを起こした役所側の背景です。
この記事の目次
1. 誤振込に至った3つの背景
今回の給付金の送金業務については「①新人の職員1人」が行っていた報道されています。
そして、送金業務に関しては今どき「②フロッピーディスク」を使い、「③ダブルチェック・トリプルチェック」もしていなかったとも言われています。
つまり、今回の事件を考える上では「①新人の職員1人」「②フロッピーディスク」「③ダブルチェック・トリプルチェック」の三点を押さえておく必要があるわけです。
2. 新人の職員さんはただただ可哀想
まず、「①新人の職員1人」に関しては、ミスをしてしまった職員の方には同情するしかありません。
基本、こういう「お金を扱う」業務をやりたい、という新人さんはいないと思うので、おそらく押し付けられたのでしょう(人手不足だったとも報道されています)。
その点だけでも可哀想ですし、何より次に述べる②と③の問題がなければこうしたことは起こらなかったと思われるからです。
3. 今回の件を象徴する「フロッピーディスク」
その②ですが、職員の方は若い方ということなので「フロッピーディスク」なんて、役場で働くまで使ったこともなかったでしょう。その時点でミスの発生確率アップ。
おそらく、もともといた職員からすると、新しいシステムよりも「フロッピーディスク」が使い慣れていたんでしょうが・・・。
また、基本的に技術というのは最新であればあるほど、人がミスしても、機械の方がなんとかしてくれるようになっています。
わかりやすいところだと自動車のオートブレーキですね。また、クラウドサービスなんかだと、明らかにおかしい数字等が入力されているとエラーを通知してくれるのが普通になっています。
もちろん「フロッピーディスク」であっても、人のミスを抑制させるような何かしらのプログラムを入れることはできなくはないのでしょうが、入ってたらこんなことにはなってないはず。
いずれにせよ、「フロッピーディスク」という過去の遺物が、様々な形で、今回の事件を象徴しているように思えてなりません。
4. ダブルチェックは「人に罪を作らないための原則」
そして、最後の「③ダブルチェック・トリプルチェック」がなかったという点は、完全に組織の問題です。
京セラの創業者である稲盛和夫氏は著書「稲盛和夫の実学 経営と会計」の中で、ダブルチェックの目的としてよく言われる「間違いの発見やその防止」はその本質ではないと指摘しています。
では、ダブルチェックは何のために行うかといえば「人に罪を作らないための原則」だとしています。
人の心は大変大きな力を持つ一方で、ときに魔が差すこともある。
そうした出来心が起こったときに、それができない仕組みになっていれば、人が罪を犯すことはない。
そのためには厳しい保護のシステムが必要であり、それが厳しければ厳しいほど、実は人に親切なシステムなのだと。
5. ミスに「損害賠償」は会社として正しい行為なのか
さて、経営者の中には、従業員が何らかのミスをした際に「損害賠償を取れないのか」と相談してくる人もいます。
先に判例上の話をすると、これはほとんどの場合「取れない」のが実情です。
が、そもそもの話、従業員のミスがそのまま会社の損害に直結してしまうような組織の方に問題があると言わざるを得ません。
上で見たように、ダブルチェックなどのシステムが組み込まれていればそうしたことは未然に防げるわけですからね。
そこに目を向けずに「損害賠償」などと口にすれば、労働者の心を傷つけ、会社から心が離れていくのが必然でしょう。
なにより、従業員のミスをカバーするようなシステムもなしに、それを理由に損害賠償を請求する組織というのは、それこそ「人を使い捨てにする」組織と言われても否定できないでしょう。
今回の4630万円は「返さない側」の図々しさ、モラルのなさに注目が集まっていますが、その発端となった役所の組織の問題には、民間企業が反面教師にできる部分がたくさんあるように思えます。