就業規則

就業規則の条文をもう少しだけわかりやすくするための一工夫

わかりやすい文章とは何でしょうか。

簡単な小学生でも読める文章なら、大人でもわかるのは簡単かもしれません。ただ、それだと詰め込める情報の質には限度が出てきます。

わかりやすいけど、何の中身もない文章を読みたい、という人はなかなかいませんよね?

なので、文章というのは「わかりやすく、かつ、質が高い」必要があると言えます。

では、わかりやすく、かつ、質が高い文章を書くにはどうしたらいいのでしょうか。

 

1. 読者を想定しないとわかりやすい文章は書けない

そのためにはまず、その文章は一体誰が読むのか、ということを想定しないといけません。

全ての人が読む前提だと、それこそ簡単な小学生でも読める文章でないといけなくなり、文章の質や量を引き下げる必要が出てくるからです。

つまり、読者の層をある程度絞って、そこに合わせた文章の作成をすることが「わかりやすく、かつ、質が高い」文章を書く第一歩と言えます。

 

2. 就業規則の文章はだいたいわかりにくい

さて、会社内でも様々な文章を作成する必要性というのはあると思います。

その中でも、重要性の高い文章といえば、就業規則でしょう。

みなさんの会社の就業規則はわかりやすく書かれているでしょうか?

こう言っては何ですが、世に出てる就業規則のひな形の9割くらいは、一目見ただけでは内容を掴みにくい、わかりにくい文章となっているので心配です。

 

3. わかりづらい文章の難点

3.1. 読む気にならない

とはいえ、就業規則なんてわかりづらくても問題ない、と考える人もいるかもしれませんね。その方が格式が出るから、みたいな感じで。

でも、難しい、わかりづらい文章って、普通の人、読みたくないじゃないですか。わたしだって「うっ」となります。

そのため、わかりづらい文章で書かれた就業規則というのは、せっかく作ったにもかかわらず労働者さんに読んでもらえないということになりがちです。

 

3.2. 検索性、メンテナンス性が低い

あと、わかりづらい文章の弊害がもう一つあって、それは検索性が低いということ。つまり、どこに何が書いてあるのかがわかりづらいということです。

人事労務関連の法律は法改正が頻繁に行われるため、定期的に就業規則を改正しないといけません。

でも、わかりづらい文章で書かれた就業規則って、どこに何が書いてあるのかがわからないため、それをやるのが非常に面倒だったりします。

つまり、わかりづらい文章で書かれた就業規則はメンテナンス性が低いわけです。

 

4. 就業規則の条文をもう少しわかりやすくするための一工夫

さて、ここからは、就業規則の条文をもう少しわかりやすくするための工夫の具体例を見ていきましょう。

 

4.1. ① 誰に向けて書くかを明確に

就業規則は会社のルール、それも労働者に守ってもらうためのルールを作成するものです。

なので、わかりやすい文章を書く際に基本となる読者の想定は、就業規則に関しては当然、労働者となります。

なので、まずは自分の会社の労働者のことを第一に考えて就業規則を作成しましょう。

裁判で勝てるかどうかとか、会社を守れるかどうか、みたいなのは、その後の話。

間違っても、労働者を無視して、裁判官にお伺いを立てするような文章にするのはやめましょう。そんなことを考えているから裁判官のお世話になるんです。

 

4.2. ② なお書き、但し書きを分離する

「なお書き」や「但し書き」は就業規則の条文には付きものですが、それもエスカレートすると、まるでその部分だけ文字の塊のようになってしまうことがあります。

一方、「なお書き」や「但し書き」はその部分だけで文章として成立しているのが普通です。

それなら、一つの項に分けてしまった方がわかりやすくなるでしょう。

以下は、厚生労働省のモデル就業規則からの抜粋ですが、但し書きの後にまた書きが繋がっていて、一つの項が少し長くなっています。

【変更前】

(退職金の支給)
第52条 勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続△年未満の者には退職金を支給しない。また、第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。

2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

出典:モデル就業規則(厚生労働省)

 

でも、それより、以下のように、それぞれを一つの項に分けた方が見やすくわかりやすいのではないでしょうか。

【変更後】

第52条(退職金の支給)

  1. 勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。
  2. 前項にかかわらず、自己都合による退職者で、勤続△年未満の者には退職金を支給しない。
  3. 同条第1項にかかわらず、第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
  4. 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

 

ちなみに、このテクニックの応用編として、長すぎる条文を複数に分割するという方法もあります。

 

4.3. ③ 強調や色文字を使う

法律の条文には強調や色文字が使われることはありませんが、就業規則にそうしたものを使ってはいけない、という決まりはありません。

なので、会社が大事だと思う箇所には強調や色文字、下線などを引いてみるのも良いでしょう。

ただ、あまりやりすぎてギャル(死語?)のスケジュール帳みたいにしてしまうのは、さすがに問題有りかと思いますが。

以下は、先ほどの退職金の条文にわたしなりに手を加えてみたものです。

(退職金の支給)
第52条 勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続△年未満の者には退職金を支給しないまた、第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。

2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

 

上の例では条件のところは強調、支給する場合は強調と青字、支給しない場合については強調と赤字を使っています。

用途に合わせて、使う装飾を合わせるのがポイントでしょうか。

ちなみに、これを②と合わせると以下のような感じ。

第52条(退職金の支給)

  1. 勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。
  2. 前項にかかわらず、自己都合による退職者で、勤続△年未満の者には退職金を支給しない。
  3. 同条1項にかかわらず、第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
  4. 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

 

4.4. ④ マンガやイラストもあり

わたしが社労士になったばかりの頃に話題になった就業規則の本に「すごい就業規則! ──ダメな職場がよみがえる「社長の本音」ルールのつくり方」があります。

こちらではなんとマンガの入った就業規則でも監督署に受理された、という話が載っています。

なので、自分の会社の労働者にわかりやすく内容を伝えるためには、こうしたマンガやイラストを利用する、という方法も有りでしょう。

 

5. まとめ

以上です。

文章をわかりやすく書く、というのは今の時代、当然に求められる技術である一方、就業規則に関してはなぜかそれがおざなりにされていました。

「わかりやすい文章」を書くにあたっては、以下の本がとても参考になるので、こちらを参考にしつつ、さらなる工夫を重ねていきたいものです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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