「うちの業界は時間で成果を測れるような仕事じゃない。だから、残業代なんて払ってられない」
一時期に比べたら、上記みたいなことを言う経営者は大分減りましたが、それでも全くゼロになったわけではありません。
あるいは、
「うちは従業員を大切にしていて、誕生日にはケーキを出したり、飲み会の会費も会社で持ってる。それだけのことをしてるんだから、残業代なんて払わなくていいだろ?」
こういうことを言う人もまだまだいたりします。
言うまでもなく、上記のような論理が法律上、まかり通ることはありません。
1. 「○○だから△△しなくてもいい」は通用するか
もちろん、上記のような「○○だから△△しなくてもいい」といった考え方は、法律と関係のないところであれば普通にされることではあります。
「□□くんは営業だから経理の仕事はしなくてもいい」、「▲▲さんは昨日、休日出勤したから、今日は代休で出勤しなくていい」などなど。
上記のようなケースは法律に関わることではないので問題ないわけですが、法律が関わってくると話は別。
1.1. 労務のコンプライアンスの代わりになるものは、法令遵守以外にない
法律は条件に当てはまる人や会社等に対して、平等に適用されます。
そして、時間外労働をさせたら残業代は払わないという法律の定めは、その業界事情によって回避できるものでもありませんし、労働者へのプレゼントや飲み会代が残業代の代わりになることもありません。
じゃあ、どうすればいいかといえば、法律を守るしかありません。
法律を守ること以外に、労務のコンプライアンスの代わりになるもの、というのはないのです。
だいたい、「○○だから△△しなくてもいい」という論理が成り立つなら「●●さんは国の英雄だから、税金を収めなくてもいい」、といったことも成り立ってしまいますし、「上級国民だから、車で事故を起こしても刑務所に入らなくてもいい」みたいなことになってしまいます。
もちろん、法律自体に「○○だから△△しなくてもいい」と書いてある場合は別で、例えば雇用保険の場合「学生は、学生だから雇用保険に入らなくてもいい」ことになっています。
2. 労務関連の違反は「表沙汰」にならないと問題になりにくい
ただ、労務のコンプライアンスの緩いところ、というとおかしいですが、上記のような勘違いを経営者がしてしまいなところというのは、多くの労務のコンプラ違反というのは「問題が表沙汰にならない限り、大きな問題にならない」というのがあります。
例えば、残業代の未払いについては、監督署が調査に入らなかったり、労働者が支払いを請求しない場合、表面上は問題がないように見えるわけです。
もちろん、監督署が突然調査に入ってくるということはいついかなるときも起こりえますし、労働者も経営者の気付いてないだけで不満を溜めていたり、隠れて監督署や弁護士に相談に行っているかもしれません。
ただ、経営者の視点で言えば、何も問題がないように見えるもまた事実。
それゆえに違反状態が長く続き常態化する中で、会社側が違反していても「問題ない」と勘違いを助長する面があるのは否めません。
3. まとめ
今回は法令のことをある程度認識しているにもかかわらず、法に違反することを自分なりに正当化してしまう人たちについて書いてみました。
法律的には間違ってるけど、何というか人間の感情的にはそれほど間違ってない、というのがなかなかに難しいところで、そういう人たちにいかに納得してもらうか、というのは社労士の腕の見せどころかなとも思っています。
一方で、今回は取り上げませんでしたが、法律を知らないために知らず知らずのうちに違反してしまう、という人たちもいます。
あるいは正当化などせず、「まっすぐに」違反する人もいます。
このように一口に「労務のコンプライアンス違反」といっても、様々な類型があるということにいても案外知られていないところではないかと思います。
類型を知ったからなんだ、という話ではあるかもしれませんが、労務のコンプライアンスに違反しているからといってそれらをまとめて「ブラック」というのは、普段から経営者の方たちとお付き合いをしている自分からすると、胸が痛む、納得いかない、という部分があるのも確かなのです。
今日のあとがき
前回のあとがきで買ったと言った、角田光代訳源氏物語を読み始めました。
15年ぶりの源氏物語の現代語訳ですが、一帖の桐壺の冒頭を読んだだけで、なんというか、帰ってきたなあという気持ちになりました。
そうそう、光源氏の母は更衣という位の人だったんだよなあ、弘徽殿の女御とかいたなあとかいろいろ。
最近は本を速読で読むのですが、この角田光代訳源氏物語に関しては、毎日寝る前に一帖ずつくらい(ちなみに、源氏物語は全五十四帖)のゆっくりペースで今後も楽しんでいきたいと思っています。