新年度になったということで、雇用保険関連の助成金の方にも様々な変更点があります。
今回はその中でも「ザ・助成金」ともいえる、キャリアアップ助成金の令和4年度からの変更点について解説していきます。
ちなみに、令和3年度の変更点はこちらで解説していますので、併せて確認してもらうとより理解が深まるかと。
また、本記事では令和4年度からの変更点の他、令和3年12月21日以降の変更点についても解説しています。
この記事の目次
1. キャリアアップ助成金、正社員化コースの変更点
キャリアアップ助成金・正社員化コースとは、非正規の労働者を正規雇用に転換した場合に助成金をもらえるというものです。
先に言っておくと、助成額自体の変更はありません。
1.1. 有期→無期が廃止
令和3年度までは、以下の場合の転換について助成が行われていました。
令和3年度まで
- 有期雇用労働者が正社員になった場合
- 無期雇用労働者が正社員になった場合
- 有期雇用労働者が無期雇用労働者になった場合
しかし、令和4年度からは「有期雇用労働者が無期雇用労働者になった場合」についての助成は行われなくなるので注意してください。
令和4年度以降
- 有期雇用労働者が正社員になった場合
- 無期雇用労働者が正社員になった場合
有期雇用労働者が無期雇用労働者になった場合
1.2. 正規・非正規の定義の変更(令和4年10月以降の転換より適用)
こちらは令和4年10月以降の適用となりますが、正規・非正規の定義が以下のように変更されます。
正規
現行 | 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者 |
改正後 | 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者 ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る |
非正規
現行 | 6か月以上雇用している有期または無期雇用労働者 |
改正後 | 賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者 |
正規に関しては、いくら会社が正社員だと言い張ったって「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」がないような社員は、キャリアアップ助成金上の正社員とは認めないということですね。
非正規に関しても、非正規用の就業規則等がきちんとないとダメですよ、ということです。
このような定義の変更が行われた背景として推測できるのは、過去の制度が「実際には、非正規から正規の転換ではなくても、賃金が上がっていれば助成金の申請ができてしまう」というものだったからでしょう(わたし自身も、お客さんから、そういう謳い文句でこの助成金を勧めてくるコンサル会社があったのを聞いています)。
こちらの定義変更は「障害者正社員化コース」にも適用されます。
1.3. 加算措置・特例の延長(令和3年12月21日より適用)
令和4年度からの変更点ではありませんが、令和3年12月21日より人材開発支援助成金の特定の訓練修了後に正社員化した場合、助成額が加算されます(有期→正規:95,000円 無期→正規:47,500円 )。
また、令和3年度限定となっていた、紹介予定派遣労働者の要件緩和措置についても延長が決まっています。
加えて、本措置の対象となる労働者を「コロナの影響による離職者」から、「求職者全体」に拡大が行われています。
2. 正社員化コース以外の変更点
以下は、正社員化コース以外の変更点です。
2.1. 賃金規定等改定コース(令和3年12月21日より適用)
賃金規定等改定コースでは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し2%以上増額することが助成の条件となります。
こちらは令和4年度からの変更点は特にありません。
ただ、令和3年12月21日の変更で、支給額等に大きな影響の出る変更が行われているため、それをここで確認しておきます。
まず、変更前までは、対象を事業所の全ての有期雇用労働者とするか、一部の有期雇用労働者とするかで助成額が変わっていましたが、これが統一されています。
令和3年12月21日より前
①全ての有期雇用労働者を対象とする場合 ←②よりも助成額が高い
②一部の有期雇用労働者を対象とする場合 ←①よりも助成額が低い
令和3年12月21日以降
①全ての有期雇用労働者を対象とする場合
②一部の有期雇用労働者を対象とする場合
→①も②も助成額は同じ
これに加えて、本助成金は対象となる有期雇用労働者の人数よって、4段階の支給額が設定されていましたが、令和4年度からはこれが2段階に変更されています。
令和3年12月21日より前まで
「1~3人」「4人~6人」「7人~10人」「11人~100人」の4段階
令和3年12月21日以降
「1人~5人」「6人~100人」の2段階
上記の2つの変更により、以前より多くもらえる場合もあれば、少なくなる場合もあるため、単純に拡大・縮小どちらとも言えませんが、制度がシンプルになったことは間違いありません。
令和3年度12月21日以降 賃金規定等改定コース助成額
支給額
- 1~5人:1人当たり 32,000円 <40,000円>(21,000円<26,250円>)
- 6人以上:1人当たり 28,500円 <36,000円>(19,000円<24,000円>)
※ < >は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額
加算措置
- 中小企業において3%以上5%未満増額改定した場合 1人当たり 14,250円 <18,000円>
- 中小企業において5%以上増額改定した場合 1人当たり 23,750円 <30,000円>
- 職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合 1事業所当たり 19万円 <24万円>(14万2,500円<18万円>) < 1事業所当たり1回のみ>
2.2. 賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースとは、有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用することが助成の条件となる助成金です。
令和3年度までは対象労働者が増えるごとに助成金への加算が行われていましたが、令和4年度からはこうした対象労働者数に関する加算は廃止されます。
2.3. 「諸手当制度等共通化コース」が「賞与・退職金制度導入コース」に変更
令和4年度より「諸手当制度等共通化コース」が「賞与・退職金制度導入コース」に変更されます。
もともとあった「諸手当制度等共通化コース」は、有期雇用労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度を新たに設け、適用することが助成の条件となっていました。
この諸手当には賞与や退職金のほか、家族手当や住宅手当、あるいは健康診断なども含まれていました。
しかし、今回この「諸手当制度等共通化コース」が「賞与・退職金制度導入コース」になったことで、有期雇用労働者に対する賞与または退職金制度の導入だけが助成の条件となります。
つまり、家族手当や住宅手当、あるいは健康診断といった制度は助成の対象から外されたというわけです。
「諸手当制度等共通化コース」自体は、それほど利用が盛んだったわけではないと思いますが、令和3年度よりこの「諸手当制度等共通化コース」に統合された「健康診断制度コース」は一定の利用が見られた制度だっただけに、影響は小さくないと思われます。
2.4. 短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者労働時間延長コースとは、雇用保険の被保険者である有期雇用労働者の週所定労働時間を延長し社会保険に加入させた場合にもらえる助成金です。
本助成金では、令和3年度まで週所定労働時間を「5時間」以上延長させた上で、社会保険に加入させることが条件となっていました。
令和4年度からはこの条件が若干緩くなり、「3時間」以上延長させた上で社会保険に加入させればOKとなっています。
また、令和4年9月30日とされていた助成額の増額措置はは令和6年9月30日まで延長されています(これは、令和6年10月より、社会保険の加入者の範囲が拡大されるため、それに合わせたと推測されます)。
2.5. 選択的適用拡大導入時処遇改善コースは令和4年9月30日で廃止
選択的適用拡大導入時処遇改善コースとは、会社が有期雇用の労働者に社会保険加入のメリット等を説明し、特定適用事業所の任意適用を受けた場合で、有期雇用労働者等の基本給を一定の割合以上増額した場合に支給される助成金です。
こちらはもともと令和4年9月30日までの時限措置でしたが、延長はされないことが決まっているため令和4年9月30日で廃止されます。
3. まとめ
以上です。
全体的にいうと完全に「縮小」といった感じですかね。
雇用調整助成金で財源を使い切ってしまったことの煽りをもろに受けてしまったというのもあると思いますが、一方で「同一労働同一賃金」も意識しているのかもしれません。
正規と非正規の格差是正が進み、それが当たり前になれば、キャリアアップ助成金で定める条件を満たしたことを理由にお金を払う、ということが逆に差別になる可能性もあるので。
キャリアアップ助成金について、詳しくは厚生労働省の出しているリーフレットをどうぞ。
キャリアアップ助成金が変わります ~令和4年4月1日以降 変更点の概要~(出典:厚生労働省)
キャリアアップ助成金のご案内(令和4年度版)(出典:厚生労働省)