求人・求職

令和4年法改正で規制が強化される「募集情報等提供事業者」とは

2022年2月10日

令和4年の労務に関連する法律で一番大きな改正は、このブログでも解説した雇用保険料率の引上げです。

逆にいうと、今のところ、それ以外の、実務に影響の大きい法改正というものはありません。

(一応、雇用情勢の悪い地域での基本手当(いわゆる失業保険)等の拡充措置の延長や、雇用保険の財政の一部を国庫負担する法改正もありますが、これらは企業の労務実務には影響を与えるものではありません。)

そんななか、一部(といってもかなり一部ですが)の事業者にとって影響があるのが、職業安定法の改正による「求人メディア等のマッチング機能の質の向上」に関することです。

この「求人メディア等のマッチング機能の質の向上」における主な改正は、「募集情報等提供事業者」の範囲の拡大と、規制の強化が挙げられます。

 

1. 募集情報等提供事業者とは

「募集情報等提供事業者」とは求人サイト・求人情報誌などにより求人・求職の情報を提供する事業者のことをいいます。

法律に規制のある「職業紹介事業」は求人者と求職者の仲介等をするのが普通ですが、募集情報等提供事業者はこうした事業者はと違い、単に求人者と求職者をつなぐ情報を公開するだけの存在です。

募集情報等提供事業者のような事業を行う者は、以前からいた一方で、少し前まではこうした事業者そのものを規制するような法律は特にありませんでした。

それが平成29年の法改正により、平成30年4月より「募集内容の的確な表示等に関する事項」「業務運営に関する事項」などが定められるに至っています。

ただし、これらはあくまで「指針」によって定められており、指針に反すること等が原因でトラブルがあっても行政処分の対象とはなっていません。

こちらの詳しい内容については厚生労働省のパンフがあるのでそちらをどうぞ。

求人サイト・求人情報誌などを運営する事業者の皆様へ(出典:厚生労働省)

 

2. 募集情報等提供事業者に関する法改正の内容

2.1. ① 募集情報等提供事業者の位置づけ

今回の改正ではまず、こうした募集情報等提供事業者の位置づけが見直され、雇用情報の充実等に関し、ハローワーク等と相互に協力するよう努める主体として法的に位置づけられます。

 

2.2. ② 募集情報等提供事業者に追加される事業

次に、この募集情報等提供事業者に「ネット上の公表情報を収集する求人メディア等」というものが追加されます。

現在、ハローワークの求人情報は基本的にホームページで公開されていて誰でも見ることができるようになっていますし、転載不可ともされていません。

なので、それを利用して、ハローワークとは別の、関係ないサイトでハローワークの求人情報を検索できるようにしているサイトを作ることができ、実際ネットにはそうしたサイトがいくつもあります。

例えば、以下のようなサイト。

ハローワーク求人情報専門の求人検索サイト

なんでわざわざそんなことを、と思うかもしれませんが、実際問題、ハローワークの求人のホームページって結構使いにくいし、それよりも利便性の高いものを作ったら便利よね、と考える民間企業や個人がいるわけです。

とはいえ、いくら、ネット上に公開されている情報をそのまま載せているとはいえ、求人・求職に関わる情報を扱っているのに何の規制もない(つまり、責任がない)のはおかしい。似た例でいうなら、違法サイトのリンクを張っておいて、リンクを張ったサイトに責任がないかといえばそういうわけではないのと同じです。

ということで、今回こうした「ネット上の公表情報を収集する求人メディア等」も募集情報等提供事業者に追加されたわけです。

 

2.3. ③ 「特定募集情報等提供事業者」の新設・届出制への移行・報酬受領の禁止

募集情報等提供事業を行う際、事業者が求職者の情報を収集する場合があります。

こうしたが求職者の情報を収集する募集情報等提供事業者については、今回の法改正により「特定募集情報等提供事業者」として位置付けられます。

そして、特定募集情報等提供事業者に関しては、事業を行う際に管轄の行政庁に届出等が必要となります。

「事業者が求職者の情報を収集する場合」が具体的にどのようなものを言うのかは、現状不明ですが、おそらく募集サイトの情報を見る場合にアカウント登録しないといけない、という場合がこれに当たるのではと考えられます。

また、特定募集情報等提供事業者が求職者から報酬を受け取ることは禁止とされています。

 

2.4. ④ 募集情報等提供事業者が依拠すべきルールの整備

平成29年の法改正の際、募集情報等提供事業者が守るべきルールが制定されましたが、こちらはあくまで指針による定めであり、トラブル等があっても行政処分の対象とならないものでした。

しかし、今回の改正で、募集情報等提供事業者が依拠すべきルールが法律によってきちんと定められることになりました。

主なルールは以下の通りです。

  • 募集情報等について的確表示(虚偽又は誤解を生じさせる表示を禁止し、最新かつ正確な内容に保つための措置を講じること)を義務付け
  • 迅速・適切な苦情処理を義務付け
  • 個人情報の保護や秘密保持を義務付け
  • 法令違反に対する改善命令等を可能とする

 

最後の「法令違反に対する改善命令等を可能とする」については、現行法では行政が募集情報等提供事業者に取れる対応は助言・指導までだったのを、法改正後は改善命令等の指導監督を可能とするものとなっています。

 

3. 施行日

この改正の施行日は上記のうち①は令和4年4月1日、それ以外は令和4年10月1日が施行日となります。

 

4. まとめ

以上です。

募集情報等提供事業を行っている会社や、これからそうしたことをやろうとしている会社のみ影響のある法改正ではありますが、届出制や処罰など当事者となる会社からするとかなり影響の大きい改正だと思うので、きちんと対応していきましょう。

資料:

平成29年改正職業安定法と募集情報等提供事業者(出典:厚生労働省)

雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要(出典:厚生労働省)

雇用保険法等の一部を改正する法律案要綱(出典:厚生労働省)

雇用保険法等の一部を改正する法律案新旧対照条文(出典:厚生労働省)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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