労災・雇用保険の改正

引上げ率1.5倍!? 地味に複雑な令和4年度の雇用保険料率を解説

2022年2月9日

雇用保険料率の引上げが閣議決定されました。

雇用保険法改正案を閣議決定 段階的に料率引き上げ 政府

また、その後、厚生労働省から雇用保険法改正法案で同様のものが提出されているため、引上げは確実です。

引上げの背景としては、長期にわたって特例がでている雇用調整助成金の影響で、財源がもうないというのがあります。

今回はその引上げられる料率の数字とスケジュール、さらには地味に複雑な雇用保険料率についても解説していきます。

 

1. 令和4年3月までの保険料

さて、現在、雇用保険料の保険料率は以下の通りです。

保険料率
一般の事業 0.9%
農林水産・清酒製造の事業 1.1%
建設業 1.2%

実は、雇用保険料は労働者と使用者がそれぞれに負担しています。

その負担割合に合わせて、料率を記載すると以下のようになります。

①労働者負担 ②事業主負担 合計(①+②)
一般の事業 0.3% 0.6% 0.9%
農林水産・清酒製造の事業 0.4% 0.7% 1.1%
建設業 0.4% 0.8% 1.2%

 

2. 令和4年4月以降の保険料

2.1. 令和4年4月の引上げは事業主負担分のみ

上記の保険料率が今年の4月と10月、2回に分けて引上げが行われます。

まず4月はこんな感じ。

①労働者負担 ②事業主負担 合計(①+②)
一般の事業 0.3% 0.65% 0.95%
農林水産・清酒製造の事業 0.4% 0.75% 1.15%
建設業 0.4% 0.8% 1.25%

見ての通り、事業主負担のみ0.05%上がります。

 

2.2. 令和4年10月分は労使共に引上げ

次に10月。

①労働者負担 ②事業主負担 合計(①+②)
一般の事業 0.5% 0.85% 1.35%
農林水産・清酒製造の事業 0.6% 0.95% 1.55%
建設業 0.6% 1.0% 1.65%

10月からは、労働者負担、事業主負担どちらも0.2%ずつ上がり、合計で0.4%上がります。

一般の事業の場合、現在の雇用保険料率の0.9%から、4月と10月で合わせて4.5%上がるため、保険料率が1.5倍になる計算です。

 

3. 労働保険年度更新への影響

年度の途中に保険料率の変更が行われるため、労働保険の年度更新の際、4月から9月と10月から翌年3月とで保険料率を変える必要があります。

かなり異例の対応となるため、手続きの際は注意が必要です。

 

4. 雇用保険料率についてもう少し詳しく

雇用保険の引上げについては以上の通り。ここからは雇用保険料率の仕組みについて少し詳しく解説します。

雇用保険料の引上げのことだけ知りたい、という方は、これより下は読む必要ありません。

 

4.1. 雇用保険料率は目的別に3つの保険料に分かれている

実は雇用保険料率は、目的別に以下の3つの料率に分かれています。

  • 失業等給付の保険料率
  • 育児休業給付の保険料率
  • 雇用保険二事業の保険料率

もともと、育児休業給付の保険料率は失業等給付の保険料率の中に含まれていたのですが、令和2年の改正で別立てとされました(ただし、別立てとなった今でも、厚生労働省のパンフなどではこの2つを合算した額が載せられています)。

そして、雇用保険二事業の保険料率とは、いわゆる助成金の財源となる保険料となります。

 

4.2. 労使で折半する保険料と使用者だけが負担する保険料

雇用保険の保険料のうち、失業等給付の保険料と育児休業給付の保険料については、労働者と使用者で折半して負担します。

一方、雇用保険の二事業の保険料率については、事業主だけが負担します。助成金がもらえるのは事業主だけだからです。

労働者よりも事業主の方が雇用保険の保険料の負担が大きいのはこのためです。

ちなみに、令和4年3月までの失業等給付の保険料率、育児休業給付の保険料率、二事業の保険料率の割合は以下の通りです。

労働者負担 事業主負担
失業等給付 育児休業給付 失業等給付 育児休業給付 二事業
一般の事業 0.1% 0.2% 0.1% 0.2% 0.3%
農林水産・清酒製造の事業 0.2% 0.2% 0.2% 0.2% 0.3%
建設業 0.2% 0.2% 0.2% 0.2% 0.4%

令和4年4月に上がるのが事業主負担の二事業の保険料率。

令和4年10月に上がるのが労働者負担と事業主負担の失業等給付の保険料率になります(つまり、育児休業給付については変更なし)。

 

4.3. 雇用保険の保険料には弾力条項がある

雇用保険の保険料率には弾力条項というものがあります。

弾力条項とは、財政状況に応じて基本となる保険料率を変えずに保険料率を変更するものです。

ちょっとわかりづらいかもしれないので、現在の雇用保険料率の話をします。

現在、失業等給付の保険料率は0.8%となっています。

いやいや、上の表をちゃんと見なよ、一般の事業だと労使合わせても0.2%じゃん、と思った方、これが弾力条項です。

つまり、本来は失業等給付の保険料率は0.8%なのですが、コロナ前の雇用保険の財政状況が非常に良かったこともあり、0.8%から0.2%まで保険料率が引き下げられていたのです。

今年の10月に失業等給付の保険料率は0.2%から0.6%に上がりますが、それでもまだ、本来の雇用保険料率よりは低いということです。

労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会の報告では0.8%自体は適正としつつ、現在はコロナからの回復途上ということで、令和4年10月の段階では0.6%が適当としてます。

 

今日のあとがき

年度の途中に雇用保険料率変えるなんて、ばっっっっっっっっっかじゃねえの、と思ってる、人事労務担当者の方、非常に多いのではないでしょうか。

今年は概算だけなので、大きな混乱はないかもしれませんが、来年の年度更新はかなり大変なことになりそうです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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