中小企業の中には、というか、中小企業の多くは労働基準法などの労働法をきちんと守れていないという事実があります。
実際、監督署の調査結果などを見ると半分以上は何らかの法違反をしています。
ただ、この事実を持って中小企業は労働法なんて守らなくていい、と思うのは早計です。
この記事の目次
1. わたしたちの世界は「生存者」で構成されている
今現在、わたしたちの周りにあるものは、その全てが「生き残っている」ものです。
一人一人の人間も、死んでいたら外を歩くことはできないし、商品の一つ一つも他との競争に負けていたら売られることはありません。会社だって、潰れてないからあるわけです。
つまり、わたしたちを取り巻く世界というのは基本的に生き残っているもの、生存者によって構成されていると言えます。
しかし、こうした生存者に囲まれていると、わたしたちは「生き残れなかった者」たちの存在をつい忘れがちです。
2. 生存バイアス(生存者バイアス)
例えば、メディアは成功した企業をよく取り上げます。
そういった報道をみてると、自分も何かきっかけがあったり、成功者の方法を真似たりすれば、同じようなことが自分にもできるのではと思うこともあるでしょう。
しかし、日本では、会社設立から5年後も生き残っている会社は15%、10年後も生き残っている会社は約6%と言われています。
つまり、成功の裏には人知れず消えていった失敗が山ほどあるわけですが、そうした失敗に光が当たることはまずありません。
そして、成功者の話ばかり聞き、失敗した人の話を聞かないでいると、情報の精度や成功・失敗の本質が歪んでいきます。
これが生存バイアス(生存者バイアス)です。
3. 生存バイアス(生存者バイアス)の例
生存者バイアスの例を一つあげると「落下する猫」という話があります。
この話、もともとは「5階以下から落ちた猫よりも、6階以上の高さから落ちた猫の方が生存率が高い」という(不可思議な)データから始まっています。そして、当時はその理由について、物理学や猫の運動神経などから説明されていました。
しかし、上記のデータは「高いところから落ちた猫を獣医が診た数」によって数えられていました。
言い換えると、獣医が診てない猫、例えば6階以上から落ちてそのまま死んでしまった猫は、データには含まれていないわけです。
なので、人間が数えることのできた数字上は5階以下から落ちた猫の方が死亡数が多いように見えるが、実際の数は6階以上から落ちた猫の方が死亡数や死亡率は高いと考えられるわけです。
4. 労働法を守らないことを理由に潰れた、というデータはないが・・・
さて、本題。
冒頭でも述べたとおり、日本には、労働基準法などの労働法を守れていない会社というのが結構な数あります。
だから、労働法なんて守らなくていい、というのは正しいのでしょうか。
会社設立から5年後も生き残っている会社は15%、10年後も生き残っている会社は約6%というデータを踏まえるなら、この中に「労働基準法などの労働法を守らないことで消えていった会社」というのがそれなりにあってもおかしくない、とは思いませんか?
つまり、法令遵守できてなくても会社は生き残れる、というのは生存バイアスの可能性があるのです。
5. 法令遵守や労務管理をきちんとしていれば避けられた倒産があったのでは・・・
5.1. 法令遵守してこなかった会社がある日を境にガタガタに
実際、社労士の視点から見ても正直「まあ、その法律を守れてないののはちょっとしょうがないかな」というのもあれば、「おいおい、その法律を守らないのかよ」と思うこともあります。
守秘義務があるので詳しくは書けませんが、それまで法令遵守をきちんとしてこなかった会社が、労働者から法令遵守を求められてガタガタになってしまった、という事例も実際見たことがあります。
ここでいう「法令遵守を求められて」というのは、就業規則を作れとか労働契約をきちんと結べ、みたいな生やさしいものではありません。要は「お金(未払いの残業代)を払え」ということです。
5.2. 川嶋事務所では会社の「緩い法令遵守」をお手伝い
もしかしたら、会社を潰してしまった側は労働法などの法律に違反していたことが、会社が潰れた理由と考えていないかもしれません。
労働者に恵まれなかったと、責任転嫁している人もいるかもしれません。
しかし、実際にはきちんと法令遵守をしていれば、あるいは労働者ときちんと労働契約を結ぶなどの労務管理をしていれば崩壊を防げた会社、というのは世の中にいっぱいあったのでは、と、日々、社労士業務を行う中で、思わずにはいられません。
あまり、ブログで営業文句的なことを書かないこのブログですが、法令遵守しないといけないのはわかっているけど、なかなか難しいとか、その余裕がない、という経営者の方がいらっしゃいましたら、弊所にご相談いただければと思います。