その他法改正

育休の分割取得や雇用環境整備等、令和3年改正の育児介護休業法を解説

2021年6月8日

前回は男性版の産休と呼ばれている「出生時育児休業」について解説しました。

実は、それ以外にも育児介護休業法については改正されているので、今回はその改正内容についてみていきます。

 

1. 育児休業の分割取得

1.1. 1歳到達までの育児休業の分割取得

現行法では、いくつかの例外を除き、育児休業は1回しか取ることができません。

つまり、育児休業を開始し、その後、子が1歳に到達する前に休業を終了した場合、もう一度、子が1歳に到達する前まで取得する、ということはできなかったわけです。

しかし、今回の改正で、子が1歳に到達するまでに育児休業を2回まで取得することができるようになりました。

そのため、例えば、産後休暇後、すぐに育児休業を取得、子が6か月になったところで一旦育休を終了したけど、事情ができたので1か月後また育休を取得を開始する、ということも可能となったわけです。

また、雇用保険の育児休業給付金についても、休業2回目までは支給されます(3回目以降は対象外)。

 

1.2. 1歳から1歳6か月、1歳6か月から2歳までの育休延長期間の再取得

1歳到達時点の段階で入る保育園等が見つからない場合、1歳から1歳6か月、それでも足りない場合は1歳6か月から2歳までの育休の延長が行われます。

現行の育児休業の制度では、この延長の申出は1回ずつしかできません。

ただ、第1子の育児休業中に、第2子の産前産後休業が始まった場合、第1子の育児休業は終了することになります。

そして、第2子の産前産後休業が始まったにもかかわらず、第2子が死産等の不幸に見舞われた場合、その第2子にかかる産前産後休業(もしくは育児休業)はそこで終了します。

そのため、第2子以降の産前産後休業により、1歳6か月まで、もしくは2歳までの育休育児休業延長中に上記のようなことが起こった場合、育休の再取得ができないという問題がありました(ちなみに、1歳到達までの育児休業で同様のことが起こった場合、法改正前でも再取得は可能です)。

今回の改正ではこの点が改善され、上記のような特別な事情により育児休業を終了したものの、育児休業終了の要因となった事由がなくなった場合、延長中であっても再度の取得が可能となります。

こちらの改正の施行日は「公布日から1年6か月を超えない範囲」とされているので、遅くとも令和4年内には施行されるはずです。

追記:こちらは令和4年10月1日施行に決定しました。

 

2. 事業主に対する育児休業を取得しやすい雇用環境整備等の義務づけ

今回の改正では、労働者が育児休業取得しやすくなるよう、事業主に以下のことが義務づけられました。

  1. 育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置
  2. 妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置を講ずる義務

2.1. 1.育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置

改正法施行後は育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置として、会社の規模にかかわらず、以下のいずれかの措置を実施する義務が発生します。

  1. 雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
  2. 育児休業に関する相談体制の整備
  3. その他省令で定める育児休業に係る雇用環境の整備に関する措置

3の省令は今後改正予定です。

 

2.2. 2.妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置を講ずる義務

今回の改正で、労働者本人またはその配偶者が妊娠・出産等をしたことについて、労働者から会社に申し出たがあった際、会社は育児休業に関する制度等をその労働者に周知する義務が定められました。

合わせて、会社は、申し出てきた労働者が育児休業取得に関する意向を確認するため、面談その他の措置を講ずる義務も合わせて発生します。

申出があった際に周知する内容や、面談以外の意向確認の方法については今後、省令で定められる予定です。

また、こうした申出をしてきたことに対し、不利益取扱いをすることはできません。

 

上記の1.、2.の施行日はいずれも令和4年4月1日となります。

 

3. 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

現行の育児介護休業法では、有期雇用労働者の育児・介護休業の取得について「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件がありました。

今回の改正で、この有期雇用労働者のみに定められていた「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が廃止されます。

ただし、労使協定を締結した場合には、事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外することを可能です。

実はこれ無期雇用労働者は改正前からこうなっていました。

要するに現行法では、雇用期間が1年未満の場合の者の育児・介護休業取得を拒否する場合、「無期雇用だと労使協定が必要、有期雇用だと労使協定不要」だったのが、改正後は「無期・有期にかかわらず労使協定が必要となった」ということです。

こちらの改正の施行日は令和4年4月1日となります。

 

4. 育児休業の取得の状況の公表義務づけ

今回の改正で、常時雇用する労働者数が1000人を超える会社には、育児休業の取得の状況について公表が義務付けられます。

公表項目やその方法等については今後省令で定められる予定です。

こちらの改正の施行日は令和5年4月1日となります。

 

5. まとめ

以上です。

実務上、特に影響が大きいのは「事業主に対する育児休業を取得しやすい雇用環境整備等の義務づけ」ですかね。

シンプルに会社がやることが増えるという意味で。

同様に1000人を超える会社の場合、育休の取得状況の公表も同様です。

ただ、どちらも詳しい内容は省令ができてこないとわからない部分が少なくないので、今後もその動向には注意が必要です。

※ 追記:改正省令案について、以下の記事で解説しています。

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案(令和3年2月26日提出)(出典:厚生労働省)

概要(リンク先PDF)

法律案要綱(リンク先PDF)

法律案新旧対照条文(リンク先PDF)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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