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助成金の花形、令和3年度の「キャリアアップ助成金」の変更点を解説

2021年5月6日

コロナ禍における雇用調整助成金を別にすれば、雇用関係の助成金でよく利用される助成金というと特定求職者雇用開発助成金とキャリアアップ助成金でしょう。

今回は、このうち、キャリアアップ助成金について、令和2年度から3年度にかけて変更された部分について解説していきます。

 

1. キャリアアップ助成金、正社員化コースの変更点

1.1. 正社員化コースの助成額に変更なし

キャリアアップ助成金には様々なコースがあるものの、よく知られ、よく利用されているのは非正規を正規に転換した際に助成金がもらえる「正社員化コース」です。

非正規を正規に転換した際の助成額については以下の通り、変更はありません。

① 有期→正規 1人当たり57万円<72万円>(42万7,500円<54万円>)
② 有期→無期
1人当たり28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>)
③ 無期→正規
1人当たり28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>)

※①~③合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人まで
※()内は大企業の場合、<>内は生産性の向上が見られた場合

令和2年度から令和3年度にかけては、上記の助成額に変更はありません。

 

1.2. 加算措置に変更あり

一方で、このコースでは、非正規から正規への転換以外に一定の要件を満たした場合、上記の額への加算措置があり、こちらは以下のように変更がされています。

令和2年度 ■各種加算措置(1人当たり、中小企業の場合)

派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用した場合 ①③:28万5,000円<36万円>(大企業も同額)
母子家庭の母等または父子家庭の父を転換等した場合 ①:1人当たり95,000円<12万円>、②③:47,500円<60,000円>(大企業も同額)
若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合 ①:1人当たり95,000円<12万円>、②③:47,500円<60,000円>(大企業も同額)
勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合<1事業所当たり1回のみ> ①③:1事業所当たり95,000円<12万円>(大企業 71,250円<90,000円>)

令和3年度 ■各種加算措置(1人当たり、中小企業の場合)

派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用した場合 ①③:28万5,000円<36万円>(大企業も同額)
母子家庭の母等または父子家庭の父を転換等した場合 ①:1人当たり95,000円<12万円>、②③:47,500円<60,000円>(大企業も同額)
勤務地・職務限定正社員・短時間正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合<1事業所当たり1回のみ> ①③:1事業所当たり95,000円<12万円>(大企業 71,250円<90,000円>)

以上のように、令和2年度から令和3年度にかけては「若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合」の加算措置が廃止される一方、新たに規定した場合の制度に「短時間正社員制度」が追加されています。

 

1.3. 賃金増額の割合が5%以上から3%以上に変更

また、正社員化コースでは、非正規から正規に上がった際に、一定程度、賃金が引上げられていることを助成金支給の要件としていますが、この要件も変更されています。

まず、令和2年度までは転換等前の6か月と転換等後の6か月の賃金を比較して、賃金が5%以上増額されていることが要件とされていましたが、令和3年度以降に転換したものに関しては3%以上の増額でOKとなります。

 

1.4. 令和3年度からは、賃金増額の要件に賞与は一切考慮に入れない

また、令和2年度までは、賃金を比較する際に「賞与を含めて」計算した際に賃金の増額が認められる場合も支給要件を満たしたことになる場合がありました。

しかし、令和3年度からは「賞与」は賃金が増額しているかどうかを考える上で「一切」考慮されなくなります。

そのため、令和3年度以降は「基本給および定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額」が転換等前の6か月と転換等後の6か月を比較して3%以上増額している必要があります。

 

1.5. 派遣期間の短い紹介予定派遣も対象に

こちらは今年の4月からの変更ではなく、今年の2月からの変更点ですが、本コースでは、派遣期間が6か月未満の紹介予定派遣の派遣労働者が派遣先の正社員として直接雇用される場合も、本コースの助成の対象とされました。

具体的には、新型コロナウイルス感染症の影響による離職者(令和2年1月24日以降に離職した者)で就労経験のない職業に就くことを希望する者が紹介予定派遣の後、派遣先の事業所に正社員として直接雇用された場合が助成対象です。

派遣労働者の転換が助成金の対象とするには、直接雇用前に当該事業所に従事していた期間が本来6か月以上を必要ですが、この変更により2か月以上~6か月未満でも支給対象となります。

 

2. 正社員化コース以外の変更点

以下は、正社員化コース以外の変更点です。

 

2.1. 障害者正社員化コースの新設

以前の記事でも書きましたが、障害者雇用安定助成金の統廃合により、障害者雇用安定助成金の「正規・無期転換」」の措置は、キャリアアップ助成金の障害者正社員化コースに移管されています。

 

2.2. 健康診断制度コースを諸手当制度等共通化コースに統合

タイトルの通りですが、健康診断制度コースを諸手当制度等共通化コースに統合されます。

令和2年までの健康診断制度コースと諸手当制度等共通化コースはいずれも、1事業所当たり1回のみもらえる助成金でしたが、別々のコースということもあり、条件を満たせば2つのコースの助成金をもらうことも可能でした。

しかし、2つのコースが統合されたため、令和3年度以降はそうしたことはできなくなります。

ただ、そもそも令和2年度までは諸手当制度等共通化コースを利用する会社はそれほど多くなかったと思われるので、影響は少ないと思います。

一方で、健康診断制度コースについても、諸手当制度等共通化コースに統合された後も、健康診断制度によって助成金がもらえる要件自体にはほぼ変更がないので、以前の健康診断制度コースと似たような感じで諸手当制度等共通化コースも使っていけると思います。

 

2.3. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース及び短時間労働者労働時間延長コースの時限措置の延長

こちらもタイトル通りですが令和2年度までの時限措置とされていた選択的適用拡大導入時処遇改善コース及び短時間労働者労働時間延長コースの期間が延長されます。

選択的適用拡大導入時処遇改善コースとは、会社が有期雇用の労働者に社会保険加入のメリット等を説明し、特定適用事業所の任意適用を受けた場合で、有期雇用労働者等の基本給を一定の割合以上増額した場合に支給される助成金です。

一方の短時間労働者労働時間延長コースは、雇用保険の被保険者である有期雇用労働者の週所定労働時間を延長し社会保険に加入させた場合にもらえる助成金となっています。

すでに述べたように、どちらも令和2年度までの時限措置とされていましたが、この期限が原則令和4年9月末まで延長されます。ただし、一部要件に当てはまる会社については令和3年9月末までが期限となります。

 

3. まとめ

以上が令和3年度のキャリアアップ助成金の主な変更点です。

注意点として、申請が令和3年度でも、その助成金の支給事由があったのが令和2年度の場合、令和2年度の制度が適用されます。

例えば、有期雇用労働者を正規にしたのが令和3年の1月の場合、申請できるのはそこから6か月後となり令和3年度内での申請となりますが、支給要件は令和2年度の制度準拠となります。

 

キャリアアップ助成金について、詳しくは厚生労働省の出しているリーフレットをどうぞ。

キャリアアップ助成金が令和3年度から変わります(リンク先PDF 出典:厚生労働省

キャリアアップ助成金のご案内(令和3年度版)(リンク先PDF 出典:厚生労働省

キャリアアップ助成金のご案内(令和2年度版)(リンク先PDF 出典:厚生労働省

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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