令和2年通常国会では年金に関する法改正がいくつか行われましたが、今回はその中から「在職時定時改定」について解説します。
この記事の目次
1. 在職時定時改定とこれまでの年金額の改定
在職時定時改定とは、65歳以上の働きながら(社会保険に加入しながら)年金をもらっている高齢労働者の年金額を毎年改定するものをいいます。
老齢厚生年金の金額は社会保険の加入期間と、加入中に支払った保険料の額(厳密には標準報酬月額)によって変わります。
当然、65歳以上で働きながら(社会保険に加入しながら)年金をもらっている場合も、納めた保険料分は年金額に反映されるようになってはいます。
しかし、現行の制度で保険料が年金額に反映されるのは、60歳台前半の老齢厚生年金をもらっている場合は65歳からの本来の老齢厚生年金がもらえるようになるタイミング、それ以外では反映されるのは社会保険の資格を喪失したとき、つまり、退職したときか、70歳に到達したときに限られていました。
しかし、今回の改正で新しく導入される在職時定時改定では、社会保険の資格を喪失しなくても、在職中でも毎年定期に納めた保険料分が年金額に反映されるようになります。
2. 在職時定時改定の概要
2.1. 基準日は9月1日
在職時定時改定は、毎年9月1日を基準日として行われます。
在職時定時改定の対象となるのは9月1日に厚生年金の受給権者かつ被保険者である人です(つまり、働きながら年金をもらっている人)。
そのため、9月1日に被保険者でない場合、在職時定時改定の対象とはなりません(9月1日に被保険者資格を取得した場合も、被保険者ではないという扱い)
ただし、9月1日よりも前に被保険者資格を喪失したものの、9月1日以降に被保険者資格を再度取得したものについては、資格喪失から資格取得までの期間が1か月以内である場合に限り、在職時定時改定の対象となります。
2.2. 反映される期間
在職時定時改定の対象となる場合、年金額に反映される期間は基準日の属する月前、つまり、8月までの被保険者であった期間分です。
また、実際に改定された年金額が受け取れるのは、基準日の属する月の翌月、つまり、10月の年金分からとなります。
年金制度改正の検討事項(リンク先:PDF 出典:第15回社会保障審議会年金部会)
3. まとめ
3.1. 厚労省の試算と在職時定時改定の注意点
ちなみに、厚生労働省の試算では、標準報酬月額10万円で1年間就労した場合は年7,000円(月500円)程度、標準報酬月額20万円の場合は年13,000円(月1,100円)程度の加算があるとしています。
これを多いと見るか少ないと見るかはその人次第ですが、少なくとも労務管理上の観点からいうと、在職老齢年金との兼ね合いには注意が必要です。
在職老齢年金によって年金が支給停止されないよう賃金を調整する場合、この在職時定時改定のことを考慮しないと、いつの間にか在職老齢年金の調整対象になっていた、ということがあり得るからです。
在職時定時改定は令和4年4月1により施行されます。
3.2. 最後に、日本法令さん主催の川嶋ゼミについて
最後は宣伝ですが、2021年1月22日(金)より、日本法令さん主催で、このブログの筆者である川嶋が講師となって、高年齢者の労務管理に関する社会保険労務士向けのWebゼミを行います。
Webゼミでは、この記事で解説した「在職時定時改定」のことはもちろんのこと、令和2年通常国会で改正された高年齢者雇用安定法や年金制度、雇用保険に関すること、さらには高年齢者の雇用管理で今後避けて通ることのできない「同一労働同一賃金」のことなど、これから高年齢者の労務管理全般がテーマとなります
Webゼミは全3回で以下の日程より行います。
カリキュラム(予定)
●第1回 2021年1月22日(金)14:30~16:30
高年齢者雇用安定法等、その他高齢労働者関連の改正内容と求められる実務
●第2回 2020年2月26日(金)14:30~16:30
定年後再雇用者と同一労働同一賃金の実務(法律、ガイドライン、最高裁判決に基づいた対応)
●第3回 2020年3月26日(金)14:30~16:30
70歳雇用等に対応した労務管理の実務と企業へのアプローチ
セミナーではなくゼミなので、ただ、講師であるわたしの話を聞くだけでなく、参加者の方との意見交換も活発に行う予定です。
興味のある方は是非、日本法令さんのHPより応募いただければと思います。