労災保険制度

芸能人やアニメーターが新たに対象となる予定の「特別加入」とは

今回はこちらのニュースについて。

労災保険 「芸能」「アニメ制作」従事者など特別加入認める

労務に詳しくない人からするとそもそも特別加入って何? という話だと思うのでまずはそちらを解説。

 

1. 特別加入とは

労災保険は本来、会社等に雇用されて働く「労働者」に適用されるものです。

そのため、フリーランスや個人事業主、会社の経営者は、例え、仕事中に怪我をしたり、仕事が原因で病気になったとしても労災の適用を受けることができません。

こうした問題に対応するため、労災保険法では「特別加入」という制度を設けています。

簡単にまとめると「特別加入」とは、本来労災保険の対象とならない人が労災の適用を受けることができる制度のことなのです。

ちなみにたまに「国の労災は給付がしょぼい、国の労災に入るなら民間のに入った方がいい」と誤解している人(そういう人に限って、法的な義務をないがしろにしてたりするんですが)がいますが、正直、民間の保険なんて相手にならないくらい国の労災の給付内容は手厚いです

だからこそ、フリーランスや会社の経営者が入れないことが不公平に繋がるわけです。

 

2. 特別加入できる人の条件

ただ、この特別加入という制度、加入できる人に制限があります。

そして、フリーランス・個人事業主等と中小事業主等とではその制限に違いがあります。

 

2.1. 個人事業主・フリーランス等(一人親方等)

まず、フリーランス・個人事業主等については以下の業種の人のみが対象となります。

① 一人親方とその他の自営業

  • 個人タクシー業者や個人貨物運送業者などの、自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業
  • 建設業の一人親方
  • 漁船による水産動植物の採捕事業
  • 林業の事業
  • 医薬品の設置販売の事業
  • 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
  • 船員法第1条に規定する船員が行う事業

② 家族従事者

③ 特定作業従事者

芸能人やアニメーター、柔道整復師の方たちはフリーランスや個人事業主に当たります。

つまり、今回の話は、フリーランス・個人事業主等で特別加入できる業種に芸能人、アニメーター、柔道整復師が追加されるということです。

 

2.2. 中小事業主等

一方、今回の話とは直接は関係ありませんが、会社の経営者やその家族が加入する場合、以下の規模の中小事業主である必要があります。

業種 労働者数
金融業、不動産業、保険業、小売業 50人以下
卸売業、サービス業 100人以下
その他 300人以下

 

3. 特別加入には特別加入団体等を経由する必要がある

では、芸能人、アニメーター、柔道整復師が特別加入できる業種に追加された場合、その手続きはどこで行うのでしょうか。

実は、個人事業主・フリーランス人が特別加入する場合は個人事業主・フリーランス等が組織した団体(特別加入団体)を通して手続きする必要があります。

つまり、通常の労災のように労働基準監督署に行って直接加入する、ということはできないわけです(海外派遣の特別加入を除く)。

出典:特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)(リンク先:PDF 厚生労働省)

中小事業主等が特別加入する場合も同様で、中小事業主等が加入する場合、労働保険事務組合を経由する必要があります。

出典:特別加入制度のしおり(中小事業主用)(リンク先:PDF 厚生労働省)

 

4. 芸能人、アニメーター、柔道整復師の特別加入先となる予定の団体とは

さて、特別加入の対象業務に芸能人、アニメーター、柔道整復師が追加されたとしても、実際に加入するには特別加入団体が必要であり、もしもそれがない場合、対象業務になったにもかかわらず特別加入できないことになってしまいます。

ただ、その点はどうやら心配は無用なようで、厚生労働省の審議会ではこの特別加入団体の受け皿として、以下の団体を想定しています。

芸能 協同組合日本俳優連合
アニメーター 一般社団法人日本アニメーター・演出協会
柔道整復師 公益社団法人日本柔道整復師会

もちろん、本当に上記の組織が特別加入団体となるかは蓋を開けてみないとわかりませんが、厚生労働省の審議会で実名が出るくらいなのでおそらくほぼ決まっているのでしょう。

また、特別加入団体は各業種で一つという決まりはないため、今後は増えることも予想されます(実際、建設業の一人親方の特別加入団体は全国にたくさんあります)。

ただし、特別加入団体が増えた場合であっても、給付自体は国の労災制度に基づき行われるので、どこの特別加入団体に加入したかによって給付額や内容が団体によって変わるということはありません。

じゃあ、どこで違いが出るかというと、特別加入団体への入会費や年会費、あるいは実際に労災に遭った場合の手続きの手数料です。

なので、特別加入団体への加入を考える場合は、そうしたところを考慮しつつ選択するのが良いでしょう。

 

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70歳雇用等に対応した労務管理の実務と企業へのアプローチ

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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