新型コロナの流行に伴い、企業活動に大きな影響が出ています。
これに伴い、政府は、企業の雇用を守るための助成金である「雇用調整助成金」について何度か特例措置を出しているのですが、そもそも、雇用調整助成金とはなんなのか、ということに重点を置きつつ、今回は解説していこうかと思います。
この記事の目次
1. 雇用調整助成金とは
1.1. 労働者を解雇・退職させないための助成金
雇用調整助成金とは「労働者を退職させずに、休業、教育訓練、出向を通じて雇用維持を図る」ための助成金です。
景気の変動や今回のような緊急事態の場合、需要(受注)が減り、企業活動を縮小せざるを得なくなる場合があります。
企業活動を縮小するとなると、避けて通れないのが雇用の削減、つまり解雇ですが、この助成金はそれを避けるためにあります。
1.2. 労働者を会社都合で休ませるには休業手当が必要
では、どのような手段で解雇等を避けるかというと、それは休業です。
仕事がないのだから会社を休みにして労働者を休ませる、パッと聞くと「当たり前じゃない?」と思えるかもしれません。
しかし、実は会社からすると労働者を休ませるというのはタダじゃないのです。
というのも、会社都合で労働者を休ませる場合、会社は「休業手当」という手当を労働者に支払う義務があるからです。
この休業手当は平均賃金の6割以上と、労働基準法で定められています。
1.3. 休業手当の一部を補助するのが雇用調整助成金
ただでさえ仕事がないのに、会社を休ませるだけでも人件費(休業手当)がかかるとなると、会社はますます雇用を減らしたくなります。
そこで、この雇用調整助成金では、会社が休業手当にかかるコストを減らし、会社に解雇ではなく雇用を維持しつつ休業させるという方法を取らせるために、休業手当の一部を補償するとしているわけです。
これを書いてる時点で、Twitterのトレンドに「雇用調整助成金」が挙がっていますが、雇用調整助成金についてなにか語りたいなら、最低限、これくらいの知識は欲しいものです(知識のない人意見ばかりなので、正直内容がシッチャカメッチャカのツイートばかり)。
2. 雇用調整助成金の基本的な流れ
では、雇用調整助成金をもらうにはどうしたらいいのでしょうか。
2.1. ①又は② 雇用調整助成金の計画を立て、計画届を役所に提出する
助成金をもらうには多くの場合、事前に計画を立て、それを役所に提出しておく必要があります。
雇用調整助成金もその例外ではなく、計画を立てそれを役所に提出、その計画通りに休業(計画が変わる場合は変更届を出す)、そして、計画の期間が終わった後に支給申請を行うわけです。
ただし、今回のコロナに関する特例措置では、(初回の)計画届については事後の提出も可となりました。
なので、計画届を提出する前に休業をさせていた場合の休業手当についても助成金の補助の対象となります。
2.2. ①又は② 実際に休業させる
特例措置を使わない場合は計画届提出後に、特例措置を使う場合は計画届提出前に労働者を休業させます。
ただし、休業は労使間の協定に基づいたものである必要があるため、計画届の提出が事後になったとしても、労使協定の締結と休業の計画は休業前に行う必要があります。
また、休業の際には当然、休業手当が支払われている必要があります。
2.3. ③ 支給申請を行う
計画に則って休業させた実績を持って、支給申請を行います。
その際、実際に休業とを行ったことを証明するため、申請書の他に、タイムカードやシフト表などの添付書類を付ける必要があります。
受給は支給申請からだいたい3か月後が目安となります。
出典:新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を追加実施します(リンク先PDF 厚生労働省)
このように「計画を立て、休業させ、支給申請を行う」というのが雇用調整助成金の1つのサイクルとなっており、一般的にはこのサイクルを1ヶ月ごとに行います。
(2か月や3か月の計画を立てることも可能だが、計画期間が長くなると支給申請を行うのが遅れ、助成金の受給も遅れるため)
3. その他、雇用調整助成金の受給要件等
3.1. 生産性要件
雇用調整助成金はどのような会社でももらえるわけではありません。
「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合にもらえるものです。
要するに景気が悪くなって、売上が落ちた場合、この助成金の対象となるわけですが、特例措置ではない通常の要件では「最近3か月の売上高が、前年の同じ時期と比べて平均10%以上減っている場合」、雇用調整助成金の対象となっていました。
しかし、今回の特例措置ではこの要件が大幅に緩和され、「新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主」で「最近1か月の売上高が、前年の同じ時期と比べて平均5%以上減っている場合」、雇用調整助成金の対象となります。
3.2. 対象となる労働者
雇用保険の助成金は、雇用保険の保険料を財源としています。
そのため、雇用保険の助成金の対象は基本的に雇用保険の被保険者だけとなります。
雇用調整助成金ではさらに、6か月以上雇用保険に加入している被保険者を対象としていたのですが、特例でこちらの条件は撤廃。
そのため、たとえば、今年の4月から入社する新卒の労働者についても対象とできます。
これらに加えてさらに今回の特例措置では雇用保険の被保険者ではない労働者もその対象にするとしています。
3.3. 助成率
雇用調整助成金は会社の支払う休業手当の一部を補助する助成金です。
では、その一部、とはどれくらいの割合なのでしょうか。
まず、基本的な話として、雇用調整助成金の助成率は大企業と中小企業で異なります。また、特例措置では労働者を解雇をしたかどうかでも助成率が変わります。
具体的には以下のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
解雇していない | 9/10 | 4/5 |
解雇した | 4/5 | 2/3 |
ただし、上記の助成率に関わらず、1人あたりの受給額の上限は8330円(令和2年3月現在)です。
参考までに、特例措置が出る前の助成率は以下の通りです。
中小企業 | 大企業 |
2/3 | 1/2 |
3.4. 雇用調整助成金上の休業手当の計算方法
労働基準法上の休業手当は平均賃金の60%以上です。
なので、当然、賃金の高い人ほど休業手当は高くなります。
では、雇用調整助成金も給与を高い人を休ませたほうがたくさんもらえるのか、というとそんなことはありません。
というのも、雇用調整助成金上の休業手当は、その会社の賃金の総額から計算することになっているからです(詳しい計算は労働保険の保険料のことから説明しないといけなくなるので今回は省略)。
なので、休ませる人によって助成金の額が変わるということはありません。
ちなみに、労働基準法上の休業手当は平均賃金の60%以上ですが、割合を70%や80%にしたとしても、前項で見た助成率で助成金は支給されます。
4. まとめ
以上です。
わかりやすさ第一に説明したため、省略している部分もありますが、まずは上記のことを頭に入れて、助成金の申請の検討をすすめるのが良いかと思います。
もっと詳しいことを知りたい場合は、厚生労働省のウェブサイトや、雇用調整助成金のパンフレットを見るのをおすすめします。
雇用調整助成金ガイドブック(令和2年3月1日現在)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)
新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大(リンク先PDF 出典:厚生労働省)