労働時間

新型コロナ対応で重要性の増す「時差通勤」の労務管理実務

新型コロナウィルスの影響もあり、政府は企業に対しテレワークや時差通勤を奨励しています。

都心部の朝の通勤ラッシュがコロナウィルスの拡散につながる可能性があり、できるだけそうしたリスクを避けるためです。

では、実際にテレワークや時差通勤を会社が行う場合、法律上どのようなことに気をつけたらいいのでしょうあk。

テレワークについては過去に何度か記事にしているので、今回は時差通勤について解説します。

関連:「雇用型テレワークガイドライン」に見るテレワークと労働時間管理の話

 

1. 時差通勤とは

時差通勤とは通勤ラッシュとなる朝の7時半から9時の時間帯を避けて通勤する事をいいます。

なぜ、7時半から9時の時間帯に通勤ラッシュになるかといえば、一般的な会社の始業時間が朝の8時や9時だからです。

なので、会社が時差通勤を行おうと思うと、基本的には始業時間を変更する必要があります。

ちなみに、以下は記事では、東京及び大阪の通勤ラッシュとなる時間帯がまとめられています(残念ながら名古屋はありませんでした)。

時差出勤の参考に 一目でわかる主要路線での平日朝の混雑時間帯(Yahoo!路線情報)

 

2. 始業時刻の変更

2.1. 始業時刻の変更には就業規則に定めが必要

始業時刻というのは立派な労働条件です。

なので、労働者はこれに遅刻すると懲戒の対象となるわけですが、一方で、会社も勝手に変えることはできません。

では、どうしたらいいのかというと、業務の都合によっては始業時刻を変更することがあることを就業規則に定めておく必要があります。

以下は、厚生労働省のモデル就業規則より抜粋。太字で強調した部分が、始業時刻の変更に当たる部分です。

(労働時間及び休憩時間)
第19条  労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合、前日までに労働者に通知する。

始業・終業時刻 休憩時間
始業 午前  時  分   時  分から  時  分まで
就業 午後  時  分

モデル就業規則について(出典:厚生労働省)

 

上記のような定めがない、という就業規則はなかなかないと思いますが、仮にないとすると、始業時刻の変更には労働者個別の同意が必要となるため注意が必要です。

逆に、すでに上記のような定めがある会社であれば、すぐにでも会社の業務命令で時差通勤は可能となります。

 

2.2. 始業時刻の決定を誰がするか

さて、ここからはより実務的な話になりますが、時差通勤をする場合、その始業時刻は誰が決定するか、という問題があります。

会社なのか、労働者なのか、です。

これについては、基本的には会社が決めるべきであると考えます。

会社が始業時刻を変更する以上は、変更後の時刻も会社が決めるのが当然でしょう。

ただ、会社が始業時刻を決める場合もきっちり「この時間」と決める場合と、「この時間からこの時間のあいだ」というように始業時刻に幅をもたせ、労働者にも選択肢を与える、という方法もあるので、このあたりは検討の余地があるでしょう。

労働者に時間の選択余地があると、労働者側で通勤ラッシュの時間を避けられるよう、通勤することができます。

 

2.3. フレックスタイム制・裁量労働制

一方、フレックスタイム制や裁量労働制の場合、そもそも、労働者が始業時刻を決定することができます。

そのため、時差通勤とは相性のいい制度となります。

フレックスタイム制や裁量労働制は、同じく新型コロナウィルス対策として推奨されている在宅勤務とも相性がいいので、これを機に導入を検討するのも良いでしょう。

 

3. 終業時刻の扱い

さて、時差通勤で朝の始業時刻を変更した場合、帰りの時間はどうするのか、という問題があります。

選択肢としては2つあって、1つは終業時刻は変えない、つまり、時短勤務とする。

もう1つは終業時刻も合わせて変更する、つまり、終業時刻を繰り下げるという方法です。

前者には時短した分の給与をどうするのか(通常通り支払うか、時短分はノーワーク・ノーペイで支払わないか)という問題があり、後者には単純に帰りの時間が遅くなる、という問題があり、一長一短といえます。

また、終業時刻を変更する場合も、当然、就業規則に定めが必要なので注意が必要です。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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