2020年4月1日より、飲食店やその他屋内施設において、原則禁煙とする改正健康増進法が施行されます。
これにより屋外及び家庭内を除くほぼ全ての屋内で禁煙、もしくは喫煙室の設置が必要となります。
会社の労務管理にも大きな影響を与える法改正であるため、今回はこの改正健康増進法について解説していきます。
この記事の目次
1. 単なる屋内禁煙、だけではない
今回の改正健康増進法の内容は、原則、屋内の喫煙を禁止するものです。
ただ、あくまで「原則」なので、例外もありますし、禁煙以外の措置を施すことで適法とすることも可能です。
また、今回の措置の中には「全ての人」を対象とするものと、「施設等の管理権原者等」を対象とするものがあります。
「施設等の管理権原者等」というのは、基本的には会社や行政機関です。
2. 受動喫煙防止措置の対象となる場所
2.1. 受動喫煙防止措置の対象は段階的に拡大されてきた
健康増進法による屋内の原則禁煙については、2019年1月より段階的に施行されています。
まず、2019年1月24日施行時に、喫煙者に対し家庭や屋外において「喫煙を行う場合は周囲の状況に配慮」することが定められました。
次に施行があったのが2019年7月1日で、このときから「学校・病院・児童福祉施設等、行政機関」の敷地内では禁煙とされています(ただし、屋外で、受動喫煙を防止するために必要な措置がとられた場所に、喫煙場所を設置することができます)。
これらの敷地内禁煙が義務付けられる施設のことを「第一種施設」と呼びます。
2.2. 第二種施設が措置の対象となり、殆どの屋内施設が措置の対象に
そして、今回、2020年4月1日より、いよいよこの改正健康増進法が全面的に施行されたわけですが、今回の施行では「第一種施設以外の多数の者が利用する施設、旅客運送事業船舶・鉄道」について、原則禁煙となります。
「第一種施設以外の多数の者が利用する施設」とは具体的には以下のとおりです。
- 事務所
- 工場
- ホテル、旅館(旅館・ホテル等の客室は除く)
- 飲食店
- 旅客運送事業船舶、鉄道
- 国会、裁判所 等
上記の「第一種施設以外の多数の者が利用する施設」のことを「第二種施設」といいます。
注目すべきは、事務所や工場がその対象に含まれている点です。
2.3. 受動喫煙防止措置の対象とならない場所や施設
また、以下の施設については喫煙目的施設ということで、今回の措置の対象からは外れています。
- 喫煙を主目的とするバー、スナック等
- 店内で喫煙可能なたばこ販売店 ・公衆喫煙所
その他、すでに述べたように家庭内、屋外についてはあくまで受動喫煙の配慮義務にとどまります。
旅館・ホテル等の客室についても、今回の受動喫煙防止措置の対象外となります。
また、経過措置として既存の経営規模の小さな飲食店についても一定の猶予措置が取られます。
3. 第二種施設の受動喫煙防止措置
3.1. 法令が要求する受動喫煙防止措置とは
今回の健康増進法の改正については、特に飲食店に関する報道が多いですが、すでにみたように実際には事務所や工場等も本措置の対象となります。
そのため、飲食店以外の職種であっても、会社は対応をする必要があります。
では、どのような対応が必要となるかというと、以下の2つのいずれかから選択することになります。
- 屋内禁煙
- 喫煙専用室設置もしくは加熱式たばこ専用の喫煙室設置
3.2. 法律で許される「喫煙室」
前者の屋内禁煙については特に解説する必要はないでしょう。
問題は後者の「喫煙専用室設置もしくは加熱式たばこ専用の喫煙室設置(以下、喫煙室)」です。
まずこの喫煙室については「室外への煙の流出防止措置」が取られている必要があります。
つまり、単に喫煙室を作るだけでなく、喫煙スペースと非喫煙スペースのあいだをガラスや壁などでしっかり分けないと駄目ということです。
また、喫煙室については喫煙可能な場所である旨の掲示を義務づけるとともに、客・従業員ともに20歳未満は立ち入れないようにする必要があります。
これは猶予措置のある経営規模の小さな飲食店や喫煙目的施設であっても同様です。
3.3. 喫煙室以外についても制限が
その他、喫煙室以外の場所については、喫煙器具や設備等を置くことも禁止となります。
つまり、労働者が自分の机に勝手に灰皿を置いたりするのも駄目、ということです。
4. 受動喫煙防止措置と会社の労務管理
以上を踏まえ、会社としてはどのような措置をとるのが良いのでしょうか。
まず、「屋内禁煙」とするか、「喫煙専用室設置もしくは加熱式たばこ専用の喫煙室設置」するかを決める必要があります。
「屋内禁煙」とするのが手っ取り早いようにも思えますが、これまでの労使の慣例で、屋内で喫煙をすることが普通であった会社の場合、いきなり屋内全面禁煙とすると、労働者からの反発や労働条件の不利益変更と言われる可能性もあります。
法律を根拠とする労働条件の変更なので、実際に不利益変更に当たるかどうかは微妙なところですが、無用なトラブルを避けるのであれば、「喫煙室」を設けることも考えなければなりません。
喫煙室を作る場合の注意点についてはすでに述べたとおりです。
4.1. 就業規則に受動喫煙防止措置を規定を
また、社内規定の整備も必要です。
受動喫煙防止措置は就業規則の相対的記載事項である「安全衛生」の項目に当てはまると考えられるからです。
屋内禁煙であればその旨を、喫煙室を作る場合は喫煙するなら喫煙室ですること、という文言に加え、喫煙室への20歳未満の立ち入りを禁止する文言も必要となります。
また、どちらの場合も禁煙スペースに喫煙器具や設備等を置くことを禁止するといった内容も記載する必要があります。
その他、今回の受動喫煙防止措置に置いて、「全ての人」を対象とする規制として以下のものがありますが、これらも規定の中に入れておくと良いでしょう。
- 喫煙禁止場所における喫煙の禁止
- 紛らわしい標識の掲示、標識の汚損等の禁止
4.2. 受動喫煙防止措置のモデル規定
モデル規定は以下のようになります。
第 条(受動喫煙の防止)
従業員は喫煙をする際、次の事項を厳守しなければならない。
- 会社の指定する喫煙室以外で喫煙を行ってはならない
- 20歳未満の従業員は喫煙室に入室してはならない
- 喫煙室以外の場所で、タバコ、ライター、マッチ、電子タバコ等、喫煙のための道具を取り出してはならない
- 喫煙室以外の場所に、灰皿等を設置してはならない
- 会社の外であっても喫煙が禁止されている場所での喫煙を行ってはならない
- 会社の内外を問わず、喫煙・禁煙に関する標識等を剥がしたり、汚損してはならない。また紛らわしい標識を掲示することも禁止とする
規定例は喫煙室を置く前提となっていますが、このあたりは会社に合わせて内容を変えていただければと思います。
屋外での業務が主の会社であっても、事務所を持たない会社というのは存在し得ないので、基本的にはどの会社でも措置を講ずる必要があります。