労働保険・社会保険制度の解説

GビズID?企業が社会保険等の手続きを電子申請する際の選択肢とは

2020年2月13日

2020年4月より、大企業等では労働保険・社会保険の手続きについて電子申請で行うことが義務化されます。

今回は改正内容はもとより、そもそも企業が電子申請を行う場合にどのような手段があるのか、どういった選択肢があるのか、について解説します。

 

1. 労働保険・社会保険の電子申請が義務化される大企業の条件

まずは今回の改正内容について。

今回の改正で、労働保険・社会保険の電子申請が義務化される大企業とは以下のとおりとなっています。

  • 資本⾦、出資⾦⼜は銀⾏等保有株式取得機構に納付する拠出⾦の額が1億円を超える法人
  • 相互会社(保険業法)
  • 投資法人(投資信託及び投資法⼈に関する法律)
  • 特定目的会社(資産の流動化に関する法律)

 

労働基準法等でよくある大企業の条件では、資本金だけでなく労働者の数をみたりもしますが、今回の電子申請の義務化については労働者の数はその条件に入っていません。

その代わり、資本金の他「出資⾦⼜は銀⾏等保有株式取得機構に納付する拠出⾦」がその条件となっています。

その他、企業の規模に関わらず、各法律に定められている相互会社、投資法人、特定目的会社についても電子申請の義務化の対象となります。

 

2. 電子申請での手続きが義務化される業務

今回の義務化ですが、すべての労働保険・社会保険の手続で電子申請が義務化されるわけではありません(そもそも、電子申請できない手続きもある)。

電子申請が義務化される手続きは以下のとおりです。

雇用保険

  • 被保険者資格取得届
  • 被保険者資格喪失届
  • 被保険者転勤届
  • ⾼年齢雇用継続給付支給申請
  • 育児休業給付支給申請

 

労災保険

継続事業(一括有期事業を含む。)を⾏う事業主が提出する以下の申告書

  • 年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出⾦申告書)
  • 増加概算保険料申告書

 

社会保険

  • 被保険者報酬月額算定基礎届
  • 被保険者報酬月額変更届
  • 被保険者賞与支払届

見ての通り、社会保険の取得・喪失届については義務化される手続きの中に含まれていません。

とはいえ、一緒にやることの多い雇用保険の取得・喪失届が電子申請の義務化に含まれるので、殆どの場合、電子申請で一緒にやることになるのではないでしょうか。

 

3. 企業が電子申請を行う方法

さて、ここからは企業が電子申請を行う場合の手段についてです。

企業が電子申請を行う場合、大きく分けて、

  • 自社内でやる
  • 外部に委託する

 

の2つです。

そして、自社内でやる場合はさらに以下の2つに分けることができます。

  • 「e-gov」という政府の電子申請サイトから直接行う方法
  • 民間の労務管理ソフトや給与計算ソフトから申請を行う方法

 

よって、企業が電子申請を行う場合の選択肢は以下のように表すことができます。

この他、自社でやる場合で、自社製ソフトを使うところもありますが、そういったリソースのある会社はかなり少数と思われるので、今回は置いておきます。

 

4. 電子証明書とGビズID

4.1. 電子証明書

自社で電子申請を行う場合、現行の電子申請のシステムでは、まず「電子証明書」が必要となります。

電子証明書には様々なものがありますが、労働保険・社会保険の電子申請で使えるものは以下のものとなります。

e-Govで利用可能な電子証明書と主要手続一覧(リンク先PDF 出典:e-gov 電子政府の総合窓口)

特筆すべきは公的個人認証サービスの電子証明書が使える点です。

こちらはマイナンバーカードの中に入っている電子証明書なので、他のものと比較してもかなり簡単に入手することができます。

各電子証明書の取得については法務省の以下のページをご確認ください。

電子証明書取得のご案内(法務省)

 

4.2. GビズID

GビズIDと手続き

これまでの電子申請では、上で見た電子証明書が必須でした。

しかし、令和2年4月より開始されるGビズIDがあれば電子証明書がなくても電子申請が可能となります。

GビズIDはIDとパスワードでログインする方式です。

電子証明書と違い、アカウントの作成は無料であるため、今後はGビズIDでの電子申請が主流になっていくのではと予想されます。

「GビズID」を活用した社会保険手続の電子申請について

「GビズID」を活用した社会保険手続の電子申請について(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

GビズIDと助成金

今後、助成金申請についてはGビズIDを利用する方法が主流になると言われています。

つまり、助成金申請の予定がある会社はGビズIDの作成はほぼ必須となると考えられます。

 

GビズIDと社労士

GビズIDを取得したからといって、必ずしも自社で手続きや助成金申請をしなければならないわけではありません。

委任登録を行えば社労士を始めとする専門家に、業務の委任を行うことができます。

 

5. 自社で電子申請を行う場合

5.1. e-govからの直接申請と民間ソフトからの申請

e-govからの直接申請と民間ソフトからの申請のどちらの場合も電子証明書か、令和2年4月以降であればGビズIDが必要であることに変わりはありません。

では、何が違うかといえば、UI(ユーザーインターフェース)です。

 

e-govからの申請の特徴

e-govから直接申請する場合、インターネットエクスプローラー(!?)から、必要な情報の入力を行い、申請等を行います。

入力した内容については、ファイルを自分のPCに保存することが可能で、例えば、何度も同じものを入力することになる会社の情報等については、保存しておくと次回以降の入力が楽になります。

ただ、パーソナライズやe-Gov電子申請アプリケーションのインストールなど面倒な点が非常に多く、会社の規模が大きくなればなるほど使いづらいと感じるのではないでしょうか。

 

民間ソフトからの申請の特徴

一方、民間ソフトの場合、民間ソフトの画面から必要な情報の入力を行います。

入力から申請まで、基本的には民間ソフトの画面で完結します。

また、例えば給与計算ソフトなどの場合、業務に必要となる社員の情報を予め入力を行うわけですが、その入力した情報を使って手続きの申請できるので、ミスの削減や業務の効率化につながります。

e-govの場合、誰かに聞きながら、というのはなかなか難しいですが、民間ソフトの場合、そのソフトの販売元等のサポートを受けられる点も、初めて電子申請をする企業にとっては安心ポイントではないでしょうか。

 

6. 外部に委託する場合

6.1. 委託できるのは社会保険労務士のみ

電子申請を外部に委託する場合、わたしたち社会保険労務士に委託することになります。

労働保険・社会保険の手続き業務は社会保険労務士の独占業務であるため、他の士業や無資格のコンサルタントが行うことはできないからです。

社会保険労務士に電子申請を委託する場合、電子申請を社会保険労務士の電子証明書で行います。

そのため、会社が電子証明書やGビズIDを取得したりする必要もありません。

 

6.2. 中には対応していない社労士も…

ただし、依頼する社会保険労務士が電子申請に対応していない場合も残念ながらあります。

高齢の同業者の方だと、そういったことに対して疎い人が少なからずいるからです。

また、大きいところなら安心、かと思いきや、ハローワーク等に行く人材が余ってるので逆に導入していない、という話も、風のうわさ(というか、電子申請関連の研修)で聞いたことがあるのでご注意を。

もちろん、弊所は電子申請に完全対応!

さらにいうと、今回、電子申請の義務化の対象となる規模の会社ともお付き合いさせていただいています。

 

7. まとめ

以上です。

正直言ってしまうと、インターネットエクスプローラーからe-govを使って、というのは一番ない方法なのかなと思います。

というのも、弊所が電子申請を始めようとしたときに、最初の1~2か月だけe-govでやってみたことがあったのですが、ファイル管理や所員との情報共有等の面を考えると、とてもじゃないけど使えるものではありませんでした。(かれこれ6年くらい前の話なので、現在はどうなっているかはわからないところもありますが、e-govのサイトを見る限り、大して変わってないように思えます)

なので、今使用されている給与計算もしくは労務管理に関する民間ソフトを利用するか、社会保険労務士に外部委託するのが良いかと思われます。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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