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70歳まで雇用!? 令和3年施行の改正高年齢者雇用安定法を解説

2020年2月7日

追記:こちらは改正高年齢者雇用安定法の改正前に書かれたものとなります。改正後に書かれた記事もありますので、よろしければこちらもどうぞ。

今回は、今国会で改正が予定されている高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)の改正内容について解説していきます。

今回の改正内容は、これまでの65歳までの雇用確保措置を上回る70歳までの措置が努力義務とはいえ明文化されたことでTwitterのトレンドにも上がるほどの注目を集めています。

ただ、実際にはどういった改正内容で、会社としてどのように対応していけばいいかまで把握している人は少ないと思われるので、その解説をしていくものです。

私の解説よりも、条文を直接読みたい、という方は以下をどうぞ。

雇用保険法等の一部を改正する法律案 法律案新旧対照条文(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

 

1. 現行の高年齢者雇用のおさらい

改正法の解説に入る前に、現行の高年齢者雇用についておさらいしておきましょう。

現行法では、まず、定年を定める場合、60歳より下の年齢とすることが法律で禁止されています。

加えて、事業主には60歳以上の労働者に対して「高年齢者雇用確保措置」を行う義務があります。

高年齢者雇用確保措置とは以下のものをいい、会社はこの内のいずれかを選択して実施する必要があります。

  • 65歳までの定年年齢の引上げ
  • 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
  • 当該定年の定めの廃止

 

今回の法改正では「定年を定める場合は60歳以上」及び「高年齢者雇用確保措置」の部分についての変更はありません。

つまり、これらを実施した上で、いかに説明する高年齢者就業確保措置を実施する必要があるわけです。

 

2. 高年齢者就業確保措置

2.1. 高年齢者就業確保措置とは

今回の法改正新しく追加されたのが「高年齢者就業確保措置」です。

「雇用」ではなく「就業」であるのにはもちろん理由があります。

高年齢者就業確保措置とは以下のものをいいます。

  1. 当該定年の引上げ
  2. 65歳以上継続雇用制度(現に雇用している高年齢者等が希望するときは、当該高年齢者をその定年後等に引き続いて雇用する制度をいう。)の導入
  3. 当該定年の定めの廃止
  4. 創業支援等措置

 

見ての通り、1.から3.は、年齢以外は高年齢者雇用確保措置と同じです。

高年齢者雇用確保措置と異なるのは、高年齢者就業確保措置には4.の創業支援等措置というものが含まれることです。

 

2.2. 創業支援等措置

では、創業支援等措置とはどのようなものを言うのでしょうか。

改正高年齢者雇用安定法の定める創業支援等措置とは、労使で同意した上で(つまり、過半数代表者等と労使協定を結んだ上で)、雇用以外の、例えば業務委託契約等により70歳までの就業を確保する措置をいいます。

創業支援等措置は、具体的には以下のものをいいます。

(1) 高年齢者が希望する場合で、当該高年齢者が新たに事業を開始する場合に、事業主が、当該事業を開始する当該高年齢者(創業高年齢者等)との間で、当該事業に係る委託契約等を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置

(2) 高年齢者が希望する場合で、以下の事業について、当該事業を実施する者が、当該高年齢者との間で、当該事業に係る委託契約その他の契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置

  1. 当該事業主が実施する社会貢献事業
  2. 法人その他の団体が当該事業主から委託を受けて実施する社会貢献事業
  3. 法人その他の団体が実施する社会貢献事業であって、当該事業主が当該社会貢献事業の円滑な実施に必要な資金の提供その他の援助を行っているもの

※ 社会貢献事業とは社会貢献活動その他不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的とする事業をいう

 

(1) 継続的に業務委託契約する制度

創業高年齢者のうち(1)については、要は、個人・法人を問わず高年齢者が事業を起こす場合に、会社とその高年齢者が委託契約を結ぶことで、会社がその労働者に対して報酬を支払うことで就業を確保するものをいいます。

「高年齢者が事業を起こす」というなんともハードルの高い条件がついていて、これだけでやる会社は少ないのでは、と思ってしまいます。

創業高年齢者等と会社が結ぶ契約は、必ずしも委託契約ではなくてもいいものの(例えば、請負契約でも問題はないと考えられます)、必ず会社がその労働者に対して報酬を支払うものである必要があります。

また、創業高年齢者等と会社が結ぶ契約が労働契約の場合は創業支援等措置には当たらないと、法律の条文上はなっていますが、労働契約で雇用しているのであれば、他の高年齢者就業確保措置は満たすので、あまり気にする必要ないかもしれません。

 

(2) 社会貢献活動に継続的に従事できる制度

(2)は、高年齢者が希望する場合に社会貢献事業に従事する制度をいいます。

この高年齢者の社会貢献事業への参加は個人としての参加となります。

社会貢献事業には「1.会社が直接行っている場合」「2.会社が別の法人等に委託している場合」「3.別の法人等が実施しているもので、会社が資金提供等を行っている場合」の3つがあります。

社会貢献事業と高年齢者が結ぶ契約が労働契約ではだめなのは(1)と同じです。

2.と3.については、会社と社会貢献事業を行う事業とのあいだで、当該高年齢者に当該業務に従事する機会を提供することを約する契約が締結されている必要があります。

社会貢献事業が具体的に何を指すのかは不明ですが、いずれにせよ、ひと目見て、この措置を選択する会社は少なそうと思える内容です。

 

2.3. 高年齢者就業確保措置のまとめ

事業主が直接雇用することに限らず、業務委託契約でもいいから就業の機会を確保する創業支援等措置が含まれるため、65歳以上の措置は「高年齢者雇用確保措置」ではなく「高年齢者就業確保措置」。

ただ、繰り返しになりますが、高年齢者就業確保措置は努力義務です。

よって、実施は会社のできる範囲で構いません。

その一方で、高年齢者雇用安定法と同じく改正される雇用保険法の中では、高年齢者就業確保措置の導入等に対して、必要な助成や援助を行うとの内容が加えられています。

つまり、高年齢者就業確保措置に関しては、将来的な助成金の創設が予想されるわけです。

そのことを踏まえると、高年齢者就業確保措置の実施はその詳細が出てからでも遅くはないでしょう。

 

3. 厚生労働省による指針の作成

高年齢者就業確保措置について、厚生労働大臣はその実施及び運用のための指針を定めることが法律に定められます。

正直、創業支援等措置については、法律の条文だけでは内容が漠然としていて要領を得にくい上に、やたら実施のハードルも高いので、具体的にどういったものが創業支援等措置に当たるのかは、指針が出るまで様子見してもいいかもしれません。

高年齢者就業確保措置が努力義務ということを踏まえると、具体的にどうしていくかについてはこの指針が出てから検討しても問題はないと思います。

 

4. まとめ

はっきり言ってしまうと、すべてが「努力義務」の4文字で終わってしまう改正内容です。

ただ、創業支援等措置の制度の作り込みを見ていると、そう遠くない将来に高年齢者就業確保措置を義務化したいのでは、と思わざるを得ないので、早めに内容だけでも確認しておくと、いざ義務化されたときに素早く対応できるのではと思います。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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