労災・雇用保険の改正

令和2年度通常国会で改正された雇用保険法の内容を解説

2020年2月4日

法改正

※ 3月31日に改正法案が国会を通過したので本文の一部を追記・修正しました。

今国会では雇用保険や労災保険といった労働保険に関する重要な法改正が行われました。

雇用保険法等の一部を改正する法律案文・理由(リンク先PDF 出典:厚生労働省

本改正の施行日は、特に断りがない限り令和2年4月1日となります。

 

1. 1.被保険者期間の見直し

雇用保険の各種給付を受けるには、単に雇用保険に加入しているだけでは足りません。

雇用保険に加入し、なおかつ、給付を受ける直前の一定の期間に相応の労働実績がなければなりません。

この雇用保険に加入していて相応の労働実績のある期間のことを雇用保険では「被保険者期間」といい、被保険者期間と認められる相応の労働実績はこれまで「賃金支払基礎日数が月に11日以上」とされてきました。

一方、被保険者期間を算定する上で「賃金支払基礎日数が月に11日以上」という計算方法だけだと、雇用保険の被保険者の取得資格(週所定労働時間が20時間以上)を満たしているにもかかわらず被保険者期間と認められない月が出てくる場合があります。

具体的にいうと、所定労働時間が8時間の労働者が週2日と週3日の勤務を定期的に繰り返す場合で、この場合、週所定労働時間は平均で20時間となる一方で、月の労働日数は曜日の兼ね合いで10日になる月もあれば、11日になる月も出てきます。

こうしたことを踏まえ、今回の改正では「賃金支払基礎日数が月に11日以上」ない場合でも、「賃金の支払の基礎となった時間が80時間以上」ある月については被保険者期間とするものとされました。

この改正は令和2年8月1日より施行です

 

2. 2.65歳以上のマルチジョブホルダーについての改正

雇用保険では、原則、1つの事業所でのみでしか加入することができません。

仮に複数の雇用保険に加入している会社に雇用されていて、どちらでも加入条件(※)を満たしている場合であっても「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ」雇用保険に加入することになります。

一方、複数の雇用保険に加入している会社に雇用されながら、いずれの会社でも加入条件を満たさない場合、その労働者は雇用保険に加入することができません。

今回の改正では「65歳以上の高齢者」に限り、複数の事業所で雇用されて働くもの(マルチジョブホルダー)の労働時間を合算して「週所定労働時間20時間以上」となる場合、雇用保険に加入できるようになります。

以下は、65歳以上のマルチジョブホルダーが雇用保険に加入できる条件です。

  1. 二以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること
  2. 一の事業主における一週間の所定労働時間が20時間未満であること
  3. 二の事業主の適用事業における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること

 

労働時間の合算にあたっては、雇用保険に加入していない事業所での労働時間や、週5時間(省令で制定予定)未満しか労働していない事業所での労働時間については合算することができないので注意が必要です。

また、65歳以上のマルチジョブホルダーが雇用保険に加入したいと申し出た場合、会社は当該労働者に対して不利益取扱をすることは禁止されてます。

今回の改正は「まずは65歳以上の労働者から」という目的があり、効果の如何によっては、将来的には65歳未満の労働者についても同様の扱いとなる可能性があります。

この改正は令和4年1月1日からの施行です

※「31日以上の雇用見込みがある」かつ「週所定労働時間20時間以上」

 

3. 3.高年齢雇用継続給付の改正

以前、こちらの記事で触れたものですね。

高年齢雇用継続給付の廃止は今の現役世代にとって有利な話だ

高年齢雇用継続給付は将来的には廃止される予定ですが、今回はその前段階として、令和7年4月1日より高年齢雇用継続給付の額が削減される法改正が行われます。

高年齢雇用継続給付の廃止が報道された当初は、令和7年より額が半額になると言われていましたが、改正法の要項を読む限りでは現行の3分の2程度の額となりそうです。

(60歳到達時の賃金と比較して、60歳以降の賃金が64%以下の場合、支払われた賃金の10%が給付金の額となる。現行は60歳以降の賃金が61%以下の場合、支払われた賃金の15%)

高年齢雇用継続給付には高年齢雇用継続給付金と高年齢再就職給付金の2つがありますが、額の計算方法はどちらも同じです。

文中でも述べましたが、施行は令和7年4月1日からです。

 

4. 4.報告徴収及び立入検査の対象の追加

報告徴収や立入検査の対象が「被保険者、受給資格者等を雇用し、若しくは雇用していた事業主」から「被保険者、受給資格者等を雇用し、若しくは雇用していたと認められる事業主」に変更されます。

 

5. 5.その他

上記以外の改正項目は以下のとおりです。

実務には影響のない部分の改正なので、今年の社労士試験を受けるよという人以外は、読み飛ばしてしまっても構いません(笑)。

 

5.1. 目的条文の改正

雇用保険法の目的条文に「労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図ること」といった内容が追加されます。

次で解説しますが、今回の改正で育児休業給付金の位置付けが変更されます(給付内容はこれまでと同じ)。

目的条文の改正はこれに合わせたものとなります。

 

5.2. 育児休業給付の新しい給付の体系への位置付け

これまでの育児休業給付金は、失業等給付の雇用継続給付の一つ、という位置づけでした。

しかし、今回の改正で失業等給付とは法律上の章が代わり、別立ての扱いとなりました。

育児休業給付金の給付内容自体は変わらないものの、国庫や保険料等の扱いに変更があります。

 

5.3. 雇用安定事業の改正

雇用安定事業とはいわゆる助成金のことです。

今回の改正で、高年齢者就業確保措置の導入等により高年齢者の雇用を延長する事業主に対して、必要な助成及び援助を行うことについて、雇用安定事業として行うことができるようになりました。

 

その他、会計法の特例、国庫負担の改正等があります。

今日のあとがき

魔が悪く、これを書いてるときにちょうど雇用保険法等に関する閣議決定が行われてしまいました(笑)。

この閣議決定に合わせて、近いうちに法律の条文もきちんとしたものがでるはずなので、それに合わせてこの記事も追記・修正を行っていく予定です。

正式に法案が提出されたのでそれに合わせて、記事を訂正しました。

川嶋事務所へのお問い合わせはこちらから!

良かったらシェアお願いします!

  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

-労災・雇用保険の改正