ハラスメント

ハラスメント対策まずはこれを! 禁止規定の作成と相談窓口の設置

2020年1月29日

過去、複数回にわたって、厚生労働省の出している各種ハラスメント指針の解説をしてきました。

ただ、もともとの指針に文量があることもあって、一つ一つの記事がかなり長くなってしまったのは反省点。

そこで今回は「ハラスメント対策、これだけ抑えておけばとりあえずは大丈夫」をテーマに、ポイントを絞って解説していきます。

本記事を読んでから、以下の指針解説を読んでいただけると、各指針やハラスメント対策の理解が進むのではないかなあと思います。

改正されたセクハラ指針を「雇用管理上講ずべき措置」を中心に解説

改正されたマタハラ指針をセクハラ指針との違いに注意しつつ解説

2020年6月より対策義務化! パワハラ指針を徹底解説

 

1. 最優先は「事業主が講ずべき雇用管理上の措置」を講ずること

各ハラスメントの指針では、「事業主の責務」や「実施することが望ましいもの」など、様々な記載があります。

しかし、会社に、実際に措置の実施が義務づけられているのはあくまで各指針の「事業主が講ずべき雇用管理上の措置」だけです。

なので、まずは「事業主が講ずべき雇用管理上の措置」できる体制作りがハラスメント対策の第一歩となります。

「事業主が講ずべき雇用管理上の措置」については、セクハラ・マタハラ・パワハラと、ハラスメントの違いはあれど以下のように共通しています。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 1.から3.までの措置と併せて講ずべき措置(相談等を行った者に対するプライバシーの配慮及び不利益取扱いの禁止等)

※ マタハラのみ「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」も講ずる必要がある

 

1.1. 就業規則に各ハラスメント対応規定を入れる

「事業主が講ずべき雇用管理上の措置」を講ずる上で、一番重要のなのは就業規則にその対応規定を入れることです。

というのも、「事業主が講ずべき雇用管理上の措置」のうち、1.の「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」については、就業規則に規定を作成しておけば雇用管理上の措置を講じているとほぼほぼ認められます。

また、3.の「職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」の中には、ハラスメント行為者への懲戒処分も含まれているのですが、そうした処分を行うためには、ハラスメント行為者への懲戒規定が就業規則に必要となります。

さらに、4.の「ハラスメントの相談等を行った者への不利益取扱いの禁止」についても、措置を講じていると認められるには、就業規則にその旨定める必要があります。

このように、就業規則にハラスメント規定を定めることは一挙三得の効果があるわけです。

労働局の調査に入られた場合も、就業規則に対応規定があるかどうかは、その会社が雇用管理上の措置を実施しているかどうかのわかりやすい判断項目なので、必ず調べられると思った方が良いでしょう。

ハラスメント規定については、記事の後半で規定例を交えてじっくり解説したいと思います。

 

1.2. 相談窓口の設置

次に、必要となるのが相談窓口です。

こちらも調査の際に、雇用管理上の措置を実施しているかどうかのわかりやすい判断項目ですので、確実に設置しておきたいところです。

各指針では相談窓口を設置していると認められる場合について以下の通り定めています。また、一般的には、人事部や総務部といったその会社で労務管理をしている人・部署が相談窓口となることが多いです。

相談窓口として認められるもの

  • 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
  • 相談に対応するための制度を設けること
  • 外部の機関に相談への対応を委託すること

相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例

  • 担当者が相談内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること
  • 担当者が、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
  • 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと

 

2. 就業規則へのハラスメント規定例

ここからは、就業規則へのハラスメント規定の規定方法についてみていきたいと思います。

厚生労働省のモデル就業規則のハラスメント規定は非常に簡易的なもの(※)なので、拙著「条文の役割から考える ベーシック就業規則作成の実務」で紹介したセクハラ禁止規定と懲戒規定を元に解説を行いたいと思います。

※ 厚生労働省のハラスメント規定はパンフレット等で事業主の方針を周知・啓発することを前提としたものなので、就業規則の記載については簡易的なものとなっている。

 

2.1. セクハラ規定の例

第  条 (セクシュアルハラスメントの禁止)

1 セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)とは、職場における性的な言動に対する他の従業員及びパートタイム労働者等(※)の対応等により当該従業員及びパートタイム労働者等の労働条件に関して不利益を与えること、又は性的な言動により他の従業員及びパートタイム労働者等の就業環境を害することをいう。

2 従業員は職務に関連し又は職場において、次に掲げる性的言動・行為等を行ってはならない。
① 不必要な身体への接触
② 容姿及び身体上の特徴に関する不必要な発言
③ 性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問
④ プライバシーの侵害
⑤ 噂の流布
⑥ 交際・性的関係の強要
⑦ わいせつ図画の閲覧、配布、掲示
⑧ 性的な言動への抗議又は拒否等を行った従業員及びパートタイム労働者等に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
⑨ 性的な言動により、他の従業員及びパートタイム労働者等の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
⑩ その他、前各号に準ずる行為として、相手方及び他の従業員及びパートタイム労働者等に不快感を与える性的言動

3 上司は、部下である従業員及びパートタイム労働者等がセクハラを受けている事実を認めながら、これを黙認する行為をしてはならない。

4 1項の職場とは、会社内のみならず、従業員及びパートタイム労働者等が業務を遂行するすべての場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする。

5 1項の他の従業員及びパートタイム労働者等とは、直接的に性的な言動の相手方となった被害者に限らず、性的な言動により就業環境を害されたすべての従業員及びパートタイム労働者等を含むものとする。

6 セクハラの相談窓口は総務部とする。また、会社はセクハラについて相談してきた者に対して不利益な取扱いをすることはない。

 

※ ここでいうパートタイム労働者等とは「臨時雇、パートタイマー・アルバイト、有期雇用労働者、無期雇用労働者」をいう

 

第  条 (懲戒事由)

次の行為をした従業員は訓戒、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇のいずれかとする。

(1~11は省略)

12. 就業規則第  条のセクハラ行為を行ったとき

 

2.2. ハラスメントの定義を記載

上記のセクハラ禁止規定では、まず1項でセクハラの定義を定めています。

これは就業規則の規定を通じて「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」を行う目的があるからです。

今回紹介しているのはセクハラ規定なのでセクハラの定義を定めていますが、マタハラ規定の場合はマタハラの、パワハラ規定の場合はパワハラの定義を定めることになります。

これらの定義は基本的に指針通りに記載すれば問題ありません。

逆に言うと、規定作成の際は指針での各ハラスメント等の定義を確認しておく必要があるわけです。

 

2.3. セクハラを行ってはならない旨・セクハラとなる項目

2項ではセクハラを行ってはならない旨を定め、具体的にセクハラとなる行為を列挙しています。

具体的にセクハラとなる行為を列挙している理由としては、1項と同様に就業規則の規定を通じて「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」を行う目的があるからです。

マタハラ・パワハラの場合も同様に、それぞれ各ハラスメントを行ってはならない旨と、どういった行為がハラスメントになるかを定める必要があります。

また、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」には「セクハラを行った者への対処の方針」も含まれます。

そのため、規定例では懲戒規定にセクハラは懲戒事由であることを明記しています。

 

2.4. 規定で相談窓口の指定

6項では相談窓口がどこであるかと、相談してきた者に対して不利益な取扱いをすることはないことを定めています。

 

2.5. セクハラ以外の定義

規定例では、セクハラの定義以外に「職場」の定義について4項で定めていますが、これも「周知・啓発」の一環です。

また、指針では「労働者」についても定義されていますが、就業規則の場合、総則のところで労働者に関する定義を行うのが普通なので、ここでは特に明記はしていません(就業規則全体では「従業員及びパートタイム労働者等」で全ての労働者を含むようことを想定しています)。

ただし、派遣労働者を受け入れている場合は、派遣労働者に対するセクハラも会社の措置の対象となるので、その旨を定める必要があります。

 

2.6. 上司の責務

3項の「上司は、部下である従業員及びパートタイム労働者等がセクハラを受けている事実を認めながら、これを黙認する行為をしてはならない。」という規定は、指針等に特に記載のあるものではありませんが、企業秩序の向上のためには、上司の責任を明確にする必要性は高い、という判断から規定例に入れてあります。

 

3. まとめ

3.1. ハラスメント規定の作成と相談窓口の設置が最低限の措置

ハラスメント規定の作成と相談窓口の設置を行えば、厚生労働省の定めるハラスメント指針への対応は、とりあえずは済みます。

一方で、ハラスメントがはらむリスクを考えれば、指針への対応に留まらず、ハラスメント対策を行うに超したことはありません。

ただ、会社ごとに割けるリソースには限度があります。

だからこそ、この記事では最低限のコンプライアンスに焦点を絞って解説を行いました。

なので、リソースに余裕のあるところ、あるいはハラスメントが会社の運営に致命的なダメージを与えうる業種等ではより様々な措置を取る必要があるでしょうし、そうでない会社については、まずはハラスメント規定の作成と相談窓口の設置を行うところから始めるのが良いと思われます。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士(登録番号 第23130006号)。社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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